No.67 「ホルス」

榎本海月の連載

王権の象徴

ハヤブサを象徴とするホルスもまたエジプトの王権と深く結びついた神である。エジプトのうち上エジプトを象徴する神であり、この地で起こったエジプト初期王朝のファラオは、自らをホルスの化身として己の権威を強化した。一方、下エジプトを象徴する神としてはセト神がおり、両者は古くよりライバルとみなされた。
この二人の戦いがオシリスの神話に取り込まれ、「ホルスが父オシリスの仇である叔父のセトと戦った」という神話が成立するに至る。この物語にはいくつかのバージョンがあるが、おおむねではなんとしても権力を己のものにしたいセトが、オシリスを殺しただけでは飽き足らず、その妻イシスや息子のホルスを徹底的に攻撃し、イシスやホルスが反撃する様が描かれる。たとえばセトはホルスを身ごもっていたイシスを牢に閉じ込め、逃げたイシスがホルスを生むと蛇に化身してホルスを噛む。毒で命の危機にあったホルスを救ったのは太陽神ラーであり、その代償としてホルスをエジプトを統治する責任を与えられた、という話もある。
成長したホルスはいよいよ父の仇を討つべくセトに戦いを挑む。この戦いについては「さまざまな動物に変化しながら戦った」とも「神々の裁判で長い争いが行われた」とも伝わる。特に裁判の話はいくつものエピソードを含み、両者の有利不利が次々入れ替わるドラマチックなものだ。その中では太陽神ラーがセトの肩をもったり、イシスがセトの悪巧みを次々看破したり、かと思いきやイシスが兄弟でもあるセトに情けをかけようとしてホルスの怒りを買い首を切られたり(すぐに牛の頭をつけて無事)し、最後にはオシリスが神々に恫喝をかけてホルスの勝利が確定する。こうしてホルスはエジプトの統治者となったのだ。

貴種流離譚としてのホルス神話

ホルスの物語は平たく言えば「王子が母の助けを受け、父の仇で悪辣な叔父を討って王になる」というものだから、貴種流離譚的の典型ストーリーといえる。このような物語は多くの神話や伝説に見られ、その冒険を背景として成立する(ホルスがセトに勝利していなければエジプトの王朝はない)現在の王朝の権威を強化するわけだ。あなたの世界の王は、どんな神話の冒険を背景に玉座に腰を下ろしているのだろうか?


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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