◇3回「秘境探検もの」

榎本海月の物語づくりのための黄金パターン+α

かつての秘境探検

「秘境探検もの」は小説ジャンルとしては前回紹介した「冒険小説」の1ジャンルと考えていいだろう。
かつて、この地球は秘境に満ちていた。海の彼方、山の向こう、密林の奥、洞窟を抜けて訪れる地底には、人間が思いもよらぬ不思議な場所があると誰もが信じていたのである。それは現実的な意味でも、そして創作的な意味でも、非常に魅力的な冒険の舞台だった。そこに文明社会出身の主人公が訪れ、わくわくするような(一方で恐怖に満ちていたりもする)冒険をするのが秘境探検ものだ。
かくして、現実の冒険家・探検家がその冒険の記録を手記に残す一方で、数々の魅力的な秘境探検ものフィクションが創作されたのである。
有名どころでは地球空洞説を題材にしたジュール・ヴェルヌの『地底旅行』、テーブル・マウンテンの上に隠された秘境での冒険を描いたアーサー・コナン・ドイルの『失われた世界』などがある。この2つは両方とも「人間が容易にいけない場所に、とっくに絶滅したはずの恐竜を始めとする不思議なもの・動物・人が繁栄していた」という話で、たしかに秘境探検というと恐竜がつきものという気もする。
しかしもちろんさまざまな秘境を創作していいのだ。絶滅動物以外だと原住民(しばしば人食い族)がもう一つ定番で、くわえてオカルト的な「魔法」「オーパーツ」「超古代文明や宇宙人の痕跡」あたりがしばしば見られる。

今の時代の秘境探検

人類が隅々まで探検して回り、人工衛星のカメラが世界中を捉えている現代、冒険のターゲットとしての「秘境」はすっかり地球から消えてしまったように思える。たとえばアフリカの現地部族などは「普段は洋服を着るが、遠くから観光客やテレビ局が来ると伝統衣装を来て伝統文化を演じる」という時代であるから、無理もない。
ただ、秘境冒険的な物語がもうできないか? というと必ずしもそうではない。いわゆる異世界転移・異世界転生ものなどは「文明社会である現代の人間が、全く違う(そしてよくわからない)異世界で冒険をする」のだから、物語の形としてはほとんど一緒と言っても過言ではないだろう。魔法や神の力に頼らずとも、近未来の技術力は異星や異世界、並行世界への進出を可能にするかもしれない。そのような物語を書きたい人にとって、過去の秘境探検ものは大いに参考になるはずだ。

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【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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