No.30 「アウグストゥス ―ローマに平和をもたらす」

榎本海月の連載

カエサルの後継者

アウグストゥスこそはローマ帝国の初代皇帝であり、志半ばに倒れたカエサルの後継者となった男である。カエサルとの関係は「姪の息子(アウグストゥスから見ると大叔父)」ということになる。
カエサルが暗殺された時、アウグストゥスは「ガイウス・オクタウィウス」という名のただの青年に過ぎなかった。しかし、大叔父の遺言によってその相続人となっていることを知るやローマへ向かい、「ガイウス・ユリウス・カエサル・オクタウィアヌス」と名乗ってカエサル死後の権力争いにおける主要なプレイヤーの一人となった。
一時はカエサルの部下たちと権力を分け合う三頭政治を形成するも結局は対立し、勢力を次々拡大させていく。対立するライバルのひとり、アントニウスがカエサルと深い関係にあったクレオパトラと手を結ぶやこれを攻め、滅ぼしてエジプトを己のものとした。
カエサル死後の内乱を収めた彼に、元老院から「尊厳者」を意味するアウグストゥスの名が与えられた。この時をもって皇帝の出現、ローマ帝国の設立と見るのが一般的である。その後、大神祇官長の職も得てローマにおける宗教の頂点になり、「国父」の称号を与えられるなど、アウグストゥスの権力は絶頂を極めたのだった。
 ただ、晩年の彼には大きな問題があった。後継者がなかなか定まらなかったのである。娘の夫(婿)や甥、腹心の部下アグリッパや彼とアウグストゥスの娘の間の子などは候補にあがったが、次々と亡くなってしまった。結局、娘の夫だったティベリウスが養子・後継者になって、二代目のローマ皇帝となったのだった。

平和をもたらした男

偉大なカエサルと比べてしまうと、アウグストゥスは人間的な個性という点では見劣りするかもしれない。しかし、彼こそがローマ帝国初代皇帝であり、何よりもカエサルの出現以前から100年あまりの長きに渡って続いていた混乱と内乱の時代を収めたという功績は大きい。
彼の時代からいわゆる「パックス・ロマーナ(ローマの平和)」が成立したこと、また拡張政策をやめるなどのちのローマ帝国に大きな影響を与えたことも間違いない。やはり偉大な人物というべきで、あなたの物語において同種の国家を設定するときにも参考にするのがおすすめだ。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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