「尊厳王」
カペー朝フランス王7代目の国王。ローマ皇帝アウグストゥスにちなんで「尊厳王(オーギュスト)」の別名を持つ。
彼の代、フランスはその領土のかなりの部分をイングランドに奪われていた。アキテーヌ、ノルマンディー、アンジューといった諸地域の相続権を持つ王妃がフランス王と離婚し、イングランド王と結婚したからだ。他にもフランスの諸侯は多くがフランス王に従わず、フィリップはかなり苦労したようである。
そんな彼がイングランドとの戦争中に教皇の命令で和睦し、十字軍に参加したといっても、イングランドと仲良く戦えるわけがない。結局フィリップは早い時期にヨーロッパへ戻り、イングランドとの戦いを再開する。
フィリップは十字軍を終えて戻ってきたリチャード、あるいは討死した兄の跡を継いだジョンと激しく戦い、ついにイングランドが大陸に持っていた領土のほとんどを奪い取ることに成功する。ジョンが「欠地王」などと呼ばれるようになってしまった由縁である。
真に賢王たるもの
彼はその後も内に向かってはフランス諸侯への影響力を強め、外に向かってはイングランドや神聖ローマ帝国、教皇らとの外交戦を繰り広げ、カペー朝の全盛期を築き上げた。フリードリヒ1世やリチャード1世のような華々しさや冒険性はないかもしれないが、国を富ませた真の賢王と言えるだろう。あなたが「真の意味で優れた王」を描きたい場合、モチーフとして相応しい人物のひとりだ。
なお、ちょっと変わったところでは「パリの街のあまりの臭さに失神してしまった」などという話もあり、当時のパリがいかにゴミが散乱して汚れ、悪臭に満ちていたかを教えてくれるエピソードとして伝わっている。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。