No.51 「アポロン ―双子の兄、予言者」

榎本海月の連載

双子の神

アポロンはオリンポス12神のひとりに数えられるギリシャの神だ。光明神であるが、それ以外にも医術や音楽など学芸も司り、意外なところでは弓術も彼の分野だ。光り輝く者の意味を持つフォイポスなる別名もあり、後には太陽神ヘリオスとも同一視された。
アポロンはゼウスと女神レトの子として、アルテミスと双子でこの世に誕生した。しかし、そのことがゼウスの正妻ヘラの激しい嫉妬を買って出産する場所を制限されてしまい、レトは各地を放浪した末に当時浮島であったデロス島で2人を生んだとされる。
生まれてまもなく立派な青年の姿になったアポロンは、北の地で一年を過ごしたのちギリシャに戻り、デルフォイで大地神ガイアの神託所を守っていた巨大な蛇ピュトンを討ち果たし、この地を己のものとした。以後、デルフォイにはアポロンの神託所が置かれ、巫女ピュティアがアポロンの言葉として数々の預言を語ったのである。
有名なところでは、スパルタ王レオニダスが迫るペルシャの大軍を前にデルフォイの神託所から預言をもらった所、「王が死ぬか、国が滅びるか」という答えが帰ってきた。レオニダスは自ら出陣して討ち死にしたが、その勇敢な戦いが功を奏してスパルタは存続した。王が死に、国は滅びなかった――というわけだ。
アポロンは父譲りのプレイボーイかつ人気者でもあったので、数々の神話に登場しては美女たちと浮名を流し、多くの子をもうける。医者の神・アスクレピオスなどはそうして生まれた子供のひとりである。
また、アポロンは運動や学芸を守護したので、各種の大会が彼に捧げられ、また勝者にはアポロンの象徴である月桂樹の冠が与えられた。

預言の神

物語や世界設定でアポロンをモチーフとして取り込むなら、やはり「預言」の部分ではないか。神々が身近な世界なら、人間が神に生贄を捧げたり誓ったりする代わりに神託を求めるのはごく当たり前のことだ。あなたの世界の神々は気安く指示や助言をくれるだろうか? くれるとしたらなんのために? 神々にも思惑はあって当然のことである。神ではなく巫女が何かしらの思惑に従って動き、自分たちに都合のいいように預言を出しているケースもあるだろう。
また、預言は(しばしば混同される予言=未来予知と同じように)謎めいた言い回しをするのが常道である。これは神や占い師が実は未来などわかっていないからどちらでも取れるような言い回しをしているのかもしれないし、あくまでヒント以上のことを言うことが許されていないのかもしれない。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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