A:盗作には注意しつつ、恐れずに
これも学校などでよく聞かれる質問の一つです。みんな結構気になるようです。特に榎本メソッドでは既存の作品をたくさん読むことでそこからヒントを得て、また創作法を養っていくやり方を重視しますので、どうしても気になってしまうのは無理もありません。また、授業では盗作がいかに危険でやってはならないことかも強調しますので、その点でも怖くなってしまうのでしょうね。
ただ、私は普段このように聞かれたら、「似てしまう」「盗作になる」ことは(意識してやろうとしているのでない限りは)気にしなくていいよ、という回答をします。なぜでしょうか。
まず、盗作についてはアイディアの面で既存作品に似ることが盗作になるケースは基本的にないからです。著作権は文章や絵など比較可能なものにあるのであって、アイディアにはありません。もしあなたがプロの文章を横で見ながら書き移しているのであればやめるべきですが、そうでなければ問題ないでしょう。
むしろ、会話文と地の文のバランスや、状況描写のやり方など、真似できるところはどんどん真似をするべきです。そうすることで貴方自身のスキル上昇を図れます。
ただ、だからといって(多くの人にとっては言うまでもないでしょうが)盗作になるようなことは無意識のうちでもしないように注意するべきです。ちょっとコピペするくらいなら、あるいは一部書き換えれば大丈夫……と思っても、必ずいつかは発覚しますからね。
A:似ていると感じてもとらわれないために
もう一つ。「似てしまう」についてはどうでしょうか。
ネットスラングとして使われる言葉の一つに、「箇条書きマジック」というものがあります。いろいろな物語の基本的な要素だけを抜き出して箇条書きにしてしまうと、全く別の話が同じように見えてしまう、というものです。
私の見てきた限り、大体の人の「似ている」はこの箇条書きマジックにとらわれていることが多いようですね。実際にはあまり似ていないことがほとんどです。残念ながら多くの場合はプロの既存作品のほうが面白いです。ではどうしたらいいか……ということを授業の中でアドバイスすることになります。
また、仮に同じアイディアで書いても、書く人が変わればぜんぜん違う作品になることも多いのです。価値観、カッコいいという思うキャラクター、好きな展開、ぜんぜん違うから当然です。作品は(例えば世の中の流行に乗ろうとしても)結局は書き手にとって写し鏡のようになり、自分の内面が反映されるものなのです。一見して似ているように見えることにとらわれないことをおすすめします。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース(https://www.ndanma.ac.jp/nma/course/novel/)】講師として長年創作指導の現場に関わっている。