No.17 「ミュンヒハウゼン男爵 ―伝説になったほら吹き」

榎本海月の連載

「ほら吹き男爵」

18世紀ドイツに生まれたカール・フリードリヒ・ヒエローニムス・フォン・ミュンヒハウゼン男爵は、「ほら吹き男爵」の通称で知られている。これは彼が話がうまい人物であったからだが、それだけにとどまらない。なんと、彼の評判が尾びれを生んで、彼の語ってないものまで含めて彼の名前が冠せられた本が作られてしまったのである。
結果、体験談にちょっと味付けする程度で、別に嘘つきでもほら話好きでもなんでもなかった男爵が、「何やら適当なほら話をする人」としてイメージが定着し、ついには「ミュンヒハウゼン症候群(人の気を引くために嘘をついたり、自分の体を傷つけたりする病気)」なる病名まで誕生してしまった。
とはいえ、「ほら吹き男爵」の物語がなかなか荒唐無稽で面白く、想像力を刺激してくれるものであるのも事実だ。作中で男爵が語るのは、「冬のロシアで杭を見つけたと思ったら、それは建物の先端だった(他の部分は雪で埋もれていた)」や「無数の鳥に引っ張られて空を飛んだ」など、いかにも現実離れしてばかばかしいが、素朴で面白いものばかりなのである。

伝言ゲームで膨れ上がる

男爵の旅話がついに宇宙まで行ってしまう『ミュンヒハウゼン物語』自体も興味深いが、最も注目するべきはほら吹き男爵というキャラクターそのものである。特徴の一部が伝言ゲーム的に誇張される中でついに現実離れしたキャラクター化してしまうのは、私達の日常の中でもしばしば見られることだ。
結果としてそのキャラクター化した自分を演じることで有名人として成功することもあるし、ギャップに潰されてしまうこともある。無関係で生きていて、ある日知らされてびっくりということもあるだろう。あなたの作品ではどうだろうか。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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