ルーンの力で空を飛ぶ
北欧神話におけるヴァン神族のひとり、フレイが持っていた「勝利の剣」は、以前も紹介したとおりレーヴァティンあるいはスルトの炎の剣と同一視されることもある剣である。しかしこの剣自体もなかなか面白い存在なので、項目を設けて紹介したい。
フレイの勝利の剣には、数多の神話伝説の中でもなかなか見ることがない特別な能力があった。勝手に動くのである。フレイが望むや否や、勝利の剣は(おそらく鞘から)自動で飛び出し、戦場を飛び回る。そして彼の敵を斬り殺して回るのだ。刀身に刻まれた魔法のルーン文字の力であるという。
これは実に恐ろしいことだ。どれだけ優れた剣であろうと、持ち手を倒せばその動きは止まる。しかし、勝手に動く剣にはその倒すべき相手がいないのだ。止めるためには金属の刀身を破壊するか、それとも押さえつければいいのだろうか? どちらにしても簡単なはずがない。
しかし、フレイがこの武器を持ってラグナロクに参加することはなかった。一目惚れした巨人の娘に言いよるため、仲介をかって出た相手に代償として求められ、献上してしまったからだ。結局、フレイは鹿の角を武器として最終決戦に参加し、命を失うことになる。
自動武器はSF的?
自動で動く武器の便利さはいうまでもない。剣も便利だが、盾も自在に動いてくれれば、たとえば両手持ちの大剣などを振っていても死角を守ってくれて大変便利だ。クロスボウや銃などが勝手に飛び回って攻撃してくれたら、気分はもうSFロボットものである。ただ、それらの武器が持ち手の意思を感じ取ってくれるならいいが、呪文などによって指示しなければいけない場合、隙が生まれる可能性が高い。あるいは、飛び回る自動武器の行動パターンを解析して勝負をかける、などという展開は面白そうだ。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。