聖遺物を抱いた武器
ジョワイユーズ。フランス語で「陽気な」という意味の名前を持つこの剣は、本連載でも何度か触れたフランスの聖王シャルルマーニュが持っていたとされる。この武器はシャルルマーニュ=実在のカール1世も持っていたようだが、やはり物語のネタとして注目したいのは聖騎士ローラン(オルランド)を中心とする、創作されたシャルルマーニュ伝説の方に出てくるジョワイユーズの方だ。
シャルルマーニュ伝説はイギリスのアーサー王伝説に影響されて作られた部分が大きい(マーリンがひょっこり出てきたりする)。本来中心に立つべき王よりも、配下の騎士の方が目立つ点で両者はよく似ている。その視点に立つとジョワイユーズはアーサー王の聖剣たるエクスカリバーに対応した武器ということになる。
実際、(伝説に語られる)ジョワイユーズは聖なる武器である。その柄には聖遺物――あの「ロンギヌスの槍」の欠片が埋め込まれているからだ。また、刀身の色が1日に30通りにも変わったという。ただ、エクスカリバーのように強烈な破壊力を発揮したようなエピソードは見当たらないようだ。
一方、似ているところもある。ジョワイユーズはフランスの王権を象徴する武器なのだ――アーサーが石に刺さった王者の剣を抜いて王と認められたように、ジョワイユーズを持つものがフランスの王なのである。
そのため、史実においても歴代のフランス王はジョワイユーズを持っていたことになっている。特に、フランス皇帝ナポレオンが戴冠式に用いられたものは今も存在するが、果たしてこれが本物なのかどうかはわからない。
王権を示す
武器には人を傷つける以上の価値を持つものがある。組織や集団の象徴であり、王や指導者の証になるようなものがその典型であり、ジョワイユーズはまさにそれだ。ファンタジックな世界では、このような武器を持つものは本当に人を従わせる魔力があってもおかしくない。
一方、リアルに考えると「王者の剣を持っているからといって相手が従うとは限らない」問題が出てくる。王者の剣は、人を従わせる実力があってこそ、王者の剣たり得るのだ。極端な話、偽物であっても王が「これが本物だ」といえば本物になるのである。ナポレオンのジョワイユーズもそうだったかもしれない。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。