No.17 「ダーインスレイヴ」―典型的な魔剣

榎本海月の連載

永遠の戦い

北欧神話、『スノリのエッダ』にはデンマーク王ホグニが持っていたという魔剣・ダーインスレイヴが登場する。
ダーインスレイヴは「ダインの遺産」という意味だが、ダインが何者かはよくわからない。北欧神話のパターンを考えれば、これを作ったドヴェルグの名前というのがありそうだ。そしてこの剣が「魔剣」と呼ばれるのは、「一度抜かれるや、血を吸わずには収まらない」という性質を持っているとされたからだ。
ホグニはヘジンとの「ヒャズニングの戦い」のエピソードによって神話に名を残す。ホグニの娘ヒルドがヘジンによって攫われ、これを取り返さんと挑んだホグニの軍勢とヘジンの軍勢が戦う、という物語だ。
ただちょっとユニークな点が2つある。1つはヒルドがすっかりヘジンに惚れてしまって父を説得しようとすること(これは失敗に終わるが)。そしていざ戦いが始まるや、魔力を持っていた彼女は夜になると戦場へ赴き、死んだ両軍の兵士や戦いで傷ついた武器防具を治してしまうこと。結果、両者の戦いはラグナロクの時まで続くのだという。
ヒルドはなぜどちらか片方ではなく両者を癒すのか。その答えは神話には描かれていない。

謎と魔剣

ヒルドの謎の答えを、ダーインスレイヴの魔力に見出すことはできるかもしれない。永遠に続く戦場は、人の血を吸う魔剣にとって最高の環境であるからだ。ダーインスレイヴに魅入られたヒルドは、魔剣に血を味合わさせるために兵士を父に殺させ続けるのだろうか? あるいは、この状況に置かれておる限り魔剣が別の場所で持ち出されることはないため、魔剣を封印するためにヒルドが父を犠牲にした、というのはどうだろうか。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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