赤い盾の騎士
ラモラックは円卓の騎士の中でも特に強者として知られた男のひとりだ。以前紹介したパーシヴァルと同じペリノア王の子である。
若き日のラモラックは名門の血筋を背負う気合からか、猪突猛進を繰り返しては過ちを犯し、後悔をすることが多かったようだ。当時の彼は主にトリスタンの物語の敵役として登場する。
やがてラモラックはトリスタンと和解した後、赤い盾を好んで用いて「赤い盾の騎士」と呼ばれるようになる。この時期になるとその強さは大いに磨かれ、ガウェインらの兄弟を試合で蹴散らしたり、十二人もの邪悪な騎士を一掃したりと、活躍が目立つ。しかし、ラモラックとガウェインらは親同士が仇(ペリノア王が、ガウェインらの父親であるロット王を殺している)と言うこともあって、兄弟はラモラックの活躍を苦々しく見守っていたようだ。
そこで、事件が起きる。ラモラックとロット王の未亡人、つまりモルゴースが恋に落ちたのである。これはロット王とモルゴースの子であるガウェイン達には許されざることだった。その怒りのあまり、ガウェインの弟のガへリスが暴挙に走る。ラモラックとモルゴースが逢瀬を果たしたところに乱入し、己の母の首を刎ねてしまったのである! ここでモルゴースは物語から退場する。
ラモラックは逃げたが、やがてガウェインらに追い詰められ、兄弟に取り囲まれて殺された。逃げきれなくなったのは「ある試合で異国の騎士・パラメデスに敵うものがいないとアーサー王が嘆いていると聞いたラモラックが、ガウェインらに見つかることも覚悟で王のために駆けつけたから」であったという。
ためらわないが故に
ラモラックはためらわない人であった。挑戦を繰り返すことで成長したが、そのせいで人の恨みも買い、また窮地に身を置くことになって、ついには身を滅ぼすことにもなる。彼は最後に後悔しただろうか? 或いは最後まで「挑戦して滅ぶならそれもよし」と考えていただろうか? どちらにしても魅力的な在り方と言える。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。