No.93 「ユーウェイン ―獅子の騎士」

榎本海月の連載

獅子の騎士

円卓の騎士ユーウェインはモルガンの子である。つまり、アーサー王の甥にあたる人物だ。彼は「獅子の騎士」と呼ばれることもある。
モルガンの項で紹介した通り、彼の母はアーサーを憎むあまり己の夫を殺そうとした。その時、ユーウェインは自ら動いて母の暴挙を止め、しかも母の罪を背負って一時期アーサー王の宮廷を追放されている。その後、冒険を経て帰参し、一人前の騎士として認められるようになった。
彼の最大の冒険は、ある森の中の不思議な泉にまつわるものだ。そこの石碑に水をかけると黒騎士が現れて挑戦してくる、という。アーサー王は円卓の騎士揃って挑戦しようとしたが、血気盛んなユーウェインは抜け駆けして挑んだ。果たして本当に黒騎士は現れ、死闘の末にユーウェインが勝つ。致命傷を負いながらも逃げる黒騎士を追って彼の城に迷い込んだユーウェインは、今や未亡人となった黒騎士の妻と出会って恋に落ち、新しい泉の守護者となった。この時、未亡人との間を取り持ったのは女性の従者リネットで、実は彼女もまたユーウェインに恋をしていた……となっているのがいかにもロマンスだ。
これでハッピーエンドになったならいいのだが、残念ながら話はここで終わらない。ユーウェインは一年と期限を区切って修行の旅に出たものの、その中で期限をすっかり忘れてしまったのだ。結果、リネットに失望され、妻からも離婚されてしまう。
傷心のユーウェインだったが、彼を匿ってくれる貴婦人がいたり、あるいは不思議なライオン(森の中でドラゴンと戦っていたと言うから、普通のライオンではあるまい)が相棒になって彼を癒してくれたりして、立ち直っていく。そしてユーウェインの失態のせいで立場を悪くしていたリネットを救い、妻からも許され、彼の冒険は大団円を迎える。
そんなユーウェインの最期はブリテンを二つに分けた内乱の中でモードレッドによって殺されると言うものであった。

典型的騎士道物語

ユーウェインの生涯はいかにも騎士道物語的なもので、皆さんが成長物語を描きたいなら大いに参考になるだろう。野心とロマンスに背中を押されて挑戦し、成功したせいでむしろ大きな失敗をしてしまい、傷ついた後に改めて自らと向き合い、人に助けられ、自分の過ちを挽回することで成長を表現するわけだ。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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