No.65 「アテン」

榎本海月の連載

宗教改革に利用される

基本的に多神教であるエジプトの信仰だが、実は一時期だけ一神教が広まったことがある。それが「アテン」の信仰だ。
アテンはもともとは多神教としてのエジプト信仰の一部だ。複数存在した太陽神の中の一柱であり、中でも南中高度(太陽が真南に入る高度のこと)の、力強い太陽の化身とされた。この、存在はしたけれど目立たなかった神に目をつけ、唯一の神として祭り上げた王がいた。それが第18王朝のアメンホテプ3世である。有名な少年王・ツタンカーメンの祖父といえばわかりやすいだろうか。
アメンホテプ3世は当時大きな力を持っていた神アモンを祀る神官たちに対抗するべくアテンを利用しようとした。そして彼の子のアメンホテプ4世は父よりも大胆にアテンを活用する。「慈悲深く恵みをもたらす太陽神」であるアテンを、「ただひとりの神、あらゆる生命と創造の源、すべてに恩恵を与えるもの、その統治する場所に悪は存在しない」という凄まじい存在に作り替えてしまったのだ。
アメンホテプ4世はさらに都を古い神官たちの影響力の強いテーベから新しい場所へ移し、己の名前もアクエンアテン(アテンに有益なもの)と改めた。そして、この新しく強力な神の代弁者として政治権力を一手に集めたのである。
残念ながらこの宗教・政治改革はあまりにも強引すぎたようでうまくいかず、アクエンアテンの死後になってアテン信仰は放棄されてしまった。

唯一神信仰

アテン信仰は非常に興味深いものだ。その神としてのあり方はのちのユダヤ教・キリスト教といった唯一神信仰に近いものを感じさせる。
物語のネタとしても、「政治的事情によって祀り上げられた神」というのはいろいろとネタになりそうだ。ファンタジー世界なら何か強力なアイテムや魔法使いの策謀によって、本来は小さな神や魔物でしかなかった存在が恐るべき魔神につくり変えられてしまい……というのも面白いかもしれない。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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