No.59 「リチャード1世」

榎本海月の連載

「獅子心王」

「獅子心王」=ライオンハートの通称を聞いたことがある人は多いのではないか。イングランド王リチャード1世は第3回十字軍の主要人物のひとりであり、騎士道精神の鑑として崇拝される人物だ。一方で、王としての彼は全くの落第者であり、その点で非難されることも多い。
彼の時代、イングランドは大陸にも領土を持ち、リチャードもフランス人として育った。若き日から父や兄らと権力をめぐって争い、最終的にはフランス王フィリップ2世と手を組んで父に後継者の座を認めさせるに至る。
そして同じ年のうちに父が死んだのでイングランド王に即位……したと思ったら、さらにその年のうちに十字軍に参加するべく東方へ出発してしまった。十字軍としてはフィリップ2世とともにサラディンに奪われていた都市アッコンを奪還。ここでフィリップ2世は帰還してしまったものの、ほとんど独力で各地の都市を奪い、サラディンと数々の激戦を繰り広げた。
しかし、リチャードとサラディンの戦いに決着がつくことはなかった。彼らは和睦し、リチャードはエルサレムを奪い返すことなくヨーロッパへ戻ったのである。背景には地元の諸侯たちとの対立、またイングランドで弟のジョンが対立する行動をとっていたことがあったらしい。さらに帰路でオーストリアに捕らえられてしまい、莫大な身代金を払わざるを得なくなるという駄目な結末までつく始末だ。
その後、リチャードは大陸の領土を巡ってフランスと戦い、一時はかなり有利に立ったものの、その途中で討ち死にしてしまう。十年を王として過ごしたが、イングランドにいたのは半年程度であったらしい。遠征の中で生きた王であった。

英雄ではあったろうけど

リチャードはなるほど戦えば強く、冒険心に満ちた英雄的な王だったといえよう。だが、その性格は粗暴であり、内政にほとんど興味を持たず、戦争のため資金を湯水のように使って国の財政を危機に追い込んだことは弁護のしようがない。物語的な人気と歴史的な評価がここまで食い違う人物もそうそうおらず、ある意味物語のモチーフとしてこれほど面白い素材も珍しい。あなたなら、このような人物をどう評価するだろうか。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

タイトルとURLをコピーしました