No.41 「リーヴとリーヴスラシル ―ラグナロクのあとに」

榎本海月の連載

ラグナロクのあとに

北欧神話の物語、その最後に待っているのはラグナロクと呼ばれる、神々と巨人たちによる最終戦争である。この戦いの中で数々の神々が討ち死にし、オーディンさえもフェンリルと呼ばれる巨大な狼によって食い殺されてしまう。そして世界は巨人スルトの放った炎に焼き尽くされ、大地は海中に没する。
――と、ここまでが有名なのだが、実はラグナロクの物語には続きがある。実は、世界の崩壊で物語は終わらないのだ。大地は再び海中からその姿を示し、新しい世界が始まる。神々も一部は生き残り、あるいはあの世から帰ってくる。
そして、新世界の主役となるのは人間だ。リーヴとリーヴスラシルというひと組の男女がラグナロクの中を生き延び、あたらしい世界の代表として名を挙げられる。そうして神々の時代は終わり、人間の時代がやってくるのだ……。
だから、リーヴとリーヴスラシルに北欧神話の中での活躍はない。彼らは物語に終わりを告げる役割を担っているからだ。

神話から歴史へ

神話の時代を「過去」と規定するなら、神々の物語がなぜ終わったのかを描く必要がある。「どうして神々は物語でやっているように私たちの前に直接現れなくなったのか?」という問いかけに、「それはこういう事件があったからだ」と説明する必要がある。そして、新しい時代の主役が人間であるのだとアピールする物語も必要だ。北欧神話におけるラグナロクとリーヴおよびリーヴスラシルはまさにそのような役目を背負った存在と言える。
もちろん、同じテーマからでもさまざまにバリエーションをつけることができる。神々が何らかの形で旅立ったり、人間に姿を変えたのだとするパターンもあるだろう。人間が神を殺す、というパターンもあるかもしれない。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

榎本秋プロデュース 創作ゼミをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む

タイトルとURLをコピーしました