No.18 「テセウス」

榎本海月の連載

かずかずの冒険

テセウスはギリシャ神話のミノタウロス退治で有名な英雄である。しかし、彼はミノタウロスとの戦いの前にも後にもさまざまな物語があるので、ここで紹介したい。
テセウスはアテナイ(アテネ)王の子だが、生まれたのはトロイゼンという別の都市だった。なぜかと言うと、父王が酔わされて交わった王女との間の生まれだったからである。成人したテセウスはアテナイ王の子である証拠を持って父の元を訪れて王子として認められたのだが、その時にわざわざ危険な陸路をとって悪党を退治するなど、英雄としての顔をこの時からすでに見せている。
テセウス最大の冒険になるのが、言わずと知れた牛の頭を持つ怪物ミノタウロス退治だ。彼がどうしてクレタ島の迷宮に潜む怪物と戦うことになったかといえば、当時のアテナイはクレタ島の支配下にあって、怪物のための生贄を出すことを強いられていたからである。
テセウスは生贄の中に紛れて迷宮に入り、ついにミノタウロスを倒し、無事迷宮を脱出する。
このような難業をこなすことができたのは、ミノス王の娘アリアドネがテセウスに惚れ、脱出のための手段として糸玉を与えていたためだ。迷宮に入る時に糸を垂らしながら進んだので、戻るときはそれをたどればよかったのである。
その後、アテナイ王となったテセウスは国家の制度を整備するとともに、女性だらけのアマゾン族の国へ出向いたり、半人半馬のケンタウロス族と戦ったり、あの世へ赴いたりと、さまざまな冒険を演じたという。

人間的には……

このようにテセウスは偉大な英雄なのだが、人間的にはちょっと問題のある部分も見え隠れする。
そもそも、命の恩人であるアリアドネを連れてクレタ島を出たはいいものの、途中で飽きでもしたのか途中の島に置き去りにしたというのである(彼女はデュオニソス神にさらわれたのだ、ともいう)。また、父王との約束で「無事に戻ったときは白い帆の船で帰る」としたのに、黒い帆から帰るのをうっかり忘れていたので父王は自殺してしまった。さらには晩年、テセウスはアテナイから追放され、落ち延びた先で殺されてしまったというのである。
業績とは別に人間性に問題があったからこういう結末になったのではないか。あなたの物語の英雄は業績通りの人物なのか、それとも、テセウスのように玉に瑕がある人としても面白い。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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