◆25回「郎党・譜代」

榎本海月の物語づくりのための黄金パターン キャラクター編+α

郎党と譜代

郎党という言葉はあまり耳馴染みがないかもしれない。武士の集団を表す「一族郎党」という言葉のうち、一族はトップと血の繋がっている家臣団で、郎党は血が繋がっていない家臣団だ。やがて一族ももともと持っていたような特権性・自律性を失い、郎党と同化していく。一方、譜代というのはその家に代々使えてきた家臣のことだ。譜代大名といえば関ヶ原の前から徳川家に仕えてきた大名……ということでわかってもらえるのではないか。
前置きが長くなった。ここではそれらの歴史的な武家用語を紹介したいのではない。これらの言葉が当てはまるような「伝統的主従関係」を取り上げたいのである。
現代社会に郎党も譜代もいない。すくなくも現代のほとんど国家において階級制は撤廃されており、「私の家は代々あなたの家に仕えてきたので、私もあなたに仕えなければいけない」と強制する法律もルールもない。……ないのだが、本人がそうしたい、あるいはそうしなければいけないと思い込んでいるのを止めることはできない。あるいはその地域や企業に「家来の家のものは代々主人の家に仕えるべき」という不文律があるとして、そのこと自体は法律違反にはならないのである。そこから嫌がる相手に何かを強制でもしない限りは。
結果、たとえば名家と呼ばれる古い家や、歴史に長い企業には、郎党譜代というべき部下・家臣がいる可能性がある。

階級なき時代の「代々の家来」

彼らは主家・主人とは生まれた頃からの付き合いであり、深い信頼関係で結ばれている(少なくともどちらかはそう思い込んでいる。本心はわからないだろう)。そのために過酷な任務、表沙汰にできない依頼を申し付けられ事もあるだろう。
それでも郎党・譜代がついていくのは第一に代々の恩義があるからだが、それだけで人を従わせられるはずもない。「お前が逆らったら他の郎党が大変なことになるぞ」「周囲や親戚から責められるぞ」という縛りがかかっていことも多いが、このような関係は結局ストレスを生むことになり、最終的にはやぶれかぶれの反逆につながりかねない。
現代の、表向きに主従関係がない時代なら尚更だ。そこで「良い主人」は適切な報酬を与えつつ「お前は特別な部下だ」「頼りにしている」とアピールをして手元に置くことになるだろう。

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【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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