第30回「銃のあり方、二種類」

ファンタジーを書くために過去の暮らしを知ろう!

前装式

銃という武器は「いま」に属するものだと思うかもしれない。しかしその歴史はなかなか古く、近年では異世界ファンタジーで姿を見ることも珍しくなくなった。そしてなにより、その歴史の中で劇的な変化も見せており、「いま」と「むかし」で姿を変えている道具でもあるので、ここで紹介する。
その変化とは、前装式(先込め式)から後装式(元込め式)へ、である。
銃というのは極端に言えば「筒に弾を込め、筒の中で火薬を爆発させ、その圧力で弾を飛ばす」ものだ。その弾をいかに勢いよく、まっすぐ、正確に飛ばすか。あるいは撃つ人間にかかる衝撃を減らし、また効率よく何度も撃てるようにする……それらの点でさまざまな工夫が施されるわけだが、大きな違いとして「弾は筒の前から込めるか」「後ろから込めるか」がある。
古典的なやり方は先から、つまり前装式だ。日本・戦国時代、火縄銃の撃ち方をテレビや本で見たことのある人も多いだろう。筒の先端から発射用の火薬を入れ、弾を入れ、棒で突き固め、しかるのちに銃の手元の方にある点火用の火薬と火縄をセット。狙いをつけ、引き金を引けば点火し、火薬が爆発して推進力になり、弾が飛び出す。
長所は後ろ側に余計な穴を開けないで済むことだ。銃というのはつまるところ火薬の爆発で生まれるガスの圧力を使うものだから、穴が開いていればガスが漏れる。技術が発達していない段階ではどうしても先からこめたほうが有利なのである。また、機械的な仕組みで弾を装填することが多い後装式ではきちんと対応した弾を使わなければうまく撃てないのに対し、前装式はとりあえず筒の中を飛び出せればいい。だから、筒の中に金属のガラクタのようなものを詰め込み、爆発させ、散弾銃のような使い方をするのも可能なはずだ……もちろんそんなことをすれば銃へのダメージも大きいから最後の手段になるが。
短所は撃つのに時間がかかることである。後ろから機械的に弾丸を送り込むことができればこそ連射も可能になるが、前装式ではどうにもならない。のちに「早合」といって火薬と弾を紙の筒でパッケージングしたものが登場して少しはマシになったようだが、限界がある。

後装式

銃において後装式が広まるためには、ふたつ必要なものがあった。ひとつは既に紹介した通り、ガスが漏れないための工夫。そしてもうひとつは、「薬莢」だ。これは弾丸と火薬、そして雷管という「衝撃を受けると点火する」仕組みがセットになったものだ。これらが揃った結果、19世紀半ばから後装式の銃が一般的になっていくのである。
結果、現在ではほとんどの銃および大砲の世界で後装式が使われている。しかし「むかし」は前装式で「いま」は後装式と一概に言えるものではない。大砲においては19世紀より前に後装式が一般的だったこともあるし、今でも迫撃砲ではしばしば前装式が使われている。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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