第25回「菓子の「いま」「むかし」」

ファンタジーを書くために過去の暮らしを知ろう!

砂糖を夢見た歴史

「いま」、私たちは非常に手軽に甘い菓子を口にすることができる。それらの多くに使われているのが砂糖だ。サトウキビや甜菜を精製して作るこの甘味料は人々を魅了してやまず、むしろ摂取しすぎの肥満や糖尿病が問題になり、代用の人工甘味料が使われたりするぐらいだ。
しかし「むかし」、多くの地域において砂糖は大変な貴重品だった。主な原料であるサトウキビが熱帯から亜熱帯に適した植物であったからだ(農法次第ではスペインあたりでも栽培可能であったというし、ほかにも砂糖がとれる植物は複数あるので、あなたの世界の状況次第では砂糖が早い段階で手軽な食材になっている可能性はある)。
砂糖を手に入れられるのは限られた身分の者だけで、彼らにとってさえも日常的に口にできるものではなかった。つまり、現代的な砂糖たっぷりの甘いケーキなどは「むかし」ではあまり期待できない、ということなのだ。
もちろん、他に甘い味がなかったわけではない。代表的なところは蜂蜜だ。ただ、「いま」蜂蜜をたっぷり使うことができるのは、養蜂――すなわちミツバチの養殖を行うノウハウが確立されているからだ。そうでなければ森の中を苦労して蜂の巣を探し、危険を犯して収穫しなければならないわけで、どうしても貴重で高価な品になってしまう。
ちなみに、日本には「甘葛」という甘い食材があった。名前の通り蔓の一種だが、これをそのままかじるわけではない。煮詰めて汁を取るものだ。その汁が甘い。清少納言は氷を削って甘葛の汁をかけたもの、つまり「いま」でいうところの「シロップがけかき氷」を食べたと『枕草子』に記録している。もちろん、それは「むかし」においては大変な贅沢である。

果物の甘み

では、「むかし」のひとは何に甘みを求めたのか。それは果物である。そもそも菓子といえばもともとは果物のことだったのだ(のちに水菓子とも呼んだ)。
林檎、杏、葡萄、蜜柑……地域ごとに原生の果物があり、あるいは異国から入ってきた果物があったので育てて、人々はこれを食べて甘みを得た。みずみずしい果物は放っておくとすぐに腐ってしまうので、干すことも盛んに行われた。柿のように、生の状態では渋くて食べられないものが、干すと驚くほど甘くなる……などということも珍しくない。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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