崖から落ちる!?
クリフハンガーという言葉を聞いたことがあるだろうか。クリフ(崖)に ハンガー(つられて)いる人、というのが本来の意味だが、そこから転じて「崖に吊られているようなピンチ状態のままその回が終わり、非常に気になる状態で次回へ話が続いてしまう」状態を指すことになっている。
有名なのはアメリカの連続ドラマで、果たして主人公はどうなってしまうんだ、という状態で終わることが多い。特にシーズンの終わりにおいて大団円にはならず、主人公が行方不明になるなど視聴者の興味を刺激する形で終わるケースがよく見られる。そこで人々が「続きが見たい」と訴えることで次シーズンが作られるわけだ。
また、『三国志演義』や『水滸伝』など講話で語られてきた物語もしばしばクリフハンガー的な終わり方を見せる。長い物語を細切れで語っていくのだが、いいところで終わってしまうと次回人々が来てくれなくなる恐れがある。そこでピンチで終わったり、新しいキャラクターが出てくるところで終わるなど、気になる終わり方をするわけだ。
やりすぎ注意
クリフハンガーは主に連載作品・連続ドラマで活用される手法だから、小説家志望者にとってはあまり関係がないように思うかもしれない。新人賞向けの作品では使い道が少ないからだ(短編連作をクリフハンガーで書く手はなくはない)。
ただ、もしあなたが「小説家になろう」のようなウェブ小説サイトへの挑戦を考えているなら話は別だ。これらのサイトでは長期連載の大長編作品が好まれやすい。つまり、漫画の週刊連載や講話に近い形で物語が展開されるわけで、その場合はクリフハンガー的手法が効果的だ。
しかし、忘れてはいけないこともある。それは、クリフハンガーが読者・視聴者にストレスを与える手法でもある、ということだ。気になるところで終わられたらストレスを感じるのが当然である。そのストレスが反転して面白さにもなるわけだが、やり過ぎればただただストレスが溜まって爆発し、次を読んでもらえない、ということもめずらしくない。注意しよう。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。