No. 12「ダグダの棍棒」―生と死を司る武器

榎本海月の連載

「善の神」

ケルト神話は神々の集団(神族)が次々と入れ替わり立ち替わり登場する物語だ。その中にダヌー神族(トゥアハー・デ・ダナーン)と呼ばれる神々がいる。その最高神が「善の神」の意味の名を持つダグダ(ダグザ)であった。
最高神、主神などというとゼウスやオーディンのような恐ろしく厳格な神をイメージするかもしれない。しかし、ダグダはむしろ鷹揚でユーモラスな神だ。よく太っているし、着ている服も立派ではない。敵対する神々と大食い勝負をして勝ったこともある。戦う神の側面も持ちながら、決して荒々しい、暴れるだけの神ではないのである。彼が象徴するのは大地であり、豊穣の属性なのだ。

ダグダの宝物

そんなダグダはいくつもの宝物を持っていた。最も有名なのは「奇跡の大鍋」だ。何が奇跡かというと、その鍋からは食料が尽きることがないのである。人類が飢えからある程度解放されたのはごく最近のことで、明日食べるものがない、という人は各地にいくらでもいた。そんな人々にとって、いくらでも食料が出てくる鍋はまさに奇跡にしか思えなかったに違いない。
しかし、繰り返すがダグダは戦う神でもあった。鍋だけでは役目が全うできない。そこで、彼は武器として棍棒ももっている。これは八人がかりでしか持ち上げられない巨大なものであったが、ダグダは自由に振り回すことができた。しかも先端には八つの突起があって、棍棒で殴りつけた相手をバラバラに砕いしてしまう、という。
さらに特別な魔力も持っていた。片方の端には相手の命を奪う力があり、もう片方には命を与える、つまり復活させる力があったのだ。どんなにユーモラスで鷹揚であり、実りを与えてくれる存在であっても、大地は時に人をあっさりと殺すことがある。その二面性を、人々はダグダとその棍棒に見たのであろう。なまじ神々しかったりかっこよかったりしない分の恐ろしさがある、ともいえよう。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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