No. 9「ハルパー」―超常の存在を刈り取る魔剣

榎本海月の連載

ギリシャ神話の魔剣

ハルパーは古代ギリシャで用いられた武器の一種だ。別称を「鎌剣」ともいい、文字通り「鎌状の弧を描いた刃がついた剣」の形をしている。刃は刀身の内側にだけついていて、相手の首に引っ掛け、引くことで切り裂くという。
ギリシャ神話には幾度か、「特別なハルパー」が登場する。
まず出てくるのは、ウラヌスとクロノスの親子が争った時だ。この時、クロノスがウラヌスの性器を切り裂くために使った武器こそがハルパーであった。それはクロノスの母・ガイアが最も硬い金属アダマス(その正体はダイヤモンドであるとも)で作り上げたものであったという。
また、伝令の神ヘルメスもまた特別なハルパーを持っていた。それは黄金のハルパーであり、ヘルメスはこれを用いて巨人アルゴスを暗殺したと伝わる。
ハルパーが最も華々しく活躍したとされるのは、ペルセウスによるメドゥーサ退治の時だ。蛇の髪を持ち、見るものを石化する魔獣メドゥーサを倒すにあたって、神々がペルセウスに贈り物をした。女神アテナ(ちなみにメドゥーサが怪物になったのはアテナのかけた呪いのせいで、ペルセウスはその尻拭いをしているとも言える)は隠れ身の魔力を持つ兜と黄金あるいは鏡の盾、そして翼の生えたサンダル。一方、ヘルメスが与えたのが例の黄金のハルパーである。これらのアイテムの力でペルセウスは見事にメドゥーサを退治したのだ。

不死者を殺す武器

特別なハルパーはどんな硬い皮も切り裂くことができたとされる。また、神々や怪物たちを倒してきた逸話からか、「不死の相手も倒せる武器」とみなされることも多いようだ。そのような特別な力を持っているのも、これが本来は神の武器であるからだ(クロノスのハルパーとヘルメスのハルパーを同一視する考え方もあるようだ)。
特別な敵を倒すために神の武器を借りるというのはいかにも説得力のある展開だが、しかしなんの問題もなくそのような武器を借りられるものだろうか? 本来神の武器であるが故に、人間が使うと大きな代償を払う必要があったり、貸してもらうために過酷な試練があったり……とした方が現代エンタメ的には説得力があるかもしれない。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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