No.4 「デュランダル」-大天使の剣か、ギリシャ由来か

榎本海月の連載

ガブリエルが授けた剣

デュランダルはフランスの聖王シャルルマーニュに仕えた勇士、ローランの剣である。この剣が敵の手に渡ることを恐れたローランは岩に叩きつけて折ってしまおうとしたが、岩が斬れてしまったのでかなわなかった……という話があるくらいだが、よほどに恐ろしい切れ味の剣であったのだろう。
さてこのデュランダル、(よくある話だが)作品によってその素性が違う。
中世中頃に作られた『ローランの歌』によれば、デュランダルを与えたのは戦争・軍事を管轄する大天使ガブリエルであったという。その黄金の柄にはペテロの血やマリアの衣服の切れ端といった聖遺物が収められていたというから、この物語の中では(キリスト教的な意味での)聖剣として扱われていたと考えていいだろう。

ヘクトールの武器

一方、中世末期の作品である『恋するオルランド(ローランのこと)』およびその続編『狂えるオルランド』では、もっと別の素性がデュランダルに与えられる。なんと、この剣はトロイア戦争で活躍した英雄・ヘクトールの持ち物であったというのだ。
この物語の中では、ローランはデュランダルを振るってスフィンクスを倒す活躍をする他、セリカン(おそらく中国のこと)の王グラダッソやタタールの王マンドリカルドといった人々がデュランダルを求めてローランに挑戦してくる。物語の中の重要なピースのひとつになっている。
当然の話ではあるが、「ヘクトールの名剣デュランダル」はヘクトールがもともと登場する伝説・神話には出てこない。彼が活躍する『イーリアス』では、「ヘクトールは敵の英雄アキレウスと戦った時、槍を失い、次に剣を抜いて戦った」とあるばかりで、このあたりから後の人々が連想してローランと結びつけただけと考えるべきであろう。
結びついたといえば、今でもフランスのある街の断崖にはデュランダルとされる剣が刺さっていて、「ローランは死ぬ前にデュランダルを崖に投げ込んだ」なる伝説が今に伝わっている。
結局のところ皆、自分たちの物語に過去の偉大な権威を結びつけるのが好き、ということなのだろう。歴史の重みが説得力を与えてくれるわけだ。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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