湖の貴婦人
アロンダイトはアーサー王伝説の主要キャラクターの一人、ランスロットが持っていたとされる剣だ。
伝説の中で詳しいことが書かれることはほとんどない。それどころか、ランスロットは物語においてしばしば「自分の愛用の剣ではなく、木の枝などその場にあるものを使ってなんとかする」キャラクターとして描写されるので、アロンダイトを用いて活躍するシーンは少ない。
だが、それでも断片的に情報が存在する。ランスロットは「湖の貴婦人」と呼ばれる妖精の女王に育てられ、地上へ送り出された。この時に与えられた剣がアロンダイトであろうと想像されるため、普通の武器ではないと考えられる。
そして、湖の貴婦人といえば――そう、アーサー王にエクスカリバーを与えた妖精である。そのため、「アロンダイトはエクスカリバーの兄弟剣である」と考えられることも多い。
「純潔」の剣
また、アロンダイトと同一視される剣が他の伝説に登場する。フランスの聖王シャルルマーニュに仕えた勇士の一人、オリヴィエの手にした「オートクレール」がアロンダイトのその後の姿である、というのだ。
オートクレールはシャルルマーニュの勇士の中心人物であるローランの剣・デュランダルとも互角に打ち合える名剣で、黄金の柄に水晶がはめ込まれた美しい剣であったとされる。なお、名前の意味は「純潔」であり、不倫の恋を責められたランスロットの剣の後身だとするならなんだか面白い。
エクスカリバーが物語の中で失われる運命(一本は折れ、もう一本は湖に返される)のに対し、同じように不思議な存在から与えられたアロンダイトは地上に残ったまま、のちの英雄によって振るわれる。この違いはどこにあるのだろうか? そんな点に注目するのもいいだろう。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。