No.97 「ベディヴィア ―アーサー王伝説の最後に」

榎本海月の連載

物語の終わり

三週間にわたって語ってきたアーサー王と円卓の騎士の物語も、今回でひと段落にしたい。その主役はベディヴィア。伝説の最後を飾る活躍をする騎士である。
ベディヴィアはかなり初期からアーサー王に仕えていた騎士であるようだ。兄も騎士で、酒蔵長として外交交渉を担当したルーカン。ベディヴィアは近衛騎士としてアーサーの護衛を務めた。冒険に出ることは基本的になかったようだ。というのも、彼は左腕を失った隻腕の騎士であったからである。
しかし、聖杯探索や内乱の中で円卓の騎士たちが次々と倒れると、ルーカンやベディヴィアといった実戦から引退済みの騎士たちさえも駆り出されるようになる。カムランの丘という場所で行われたアーサーとモードレッドの最終決戦において、ベディヴィアも剣を振るった。そして、戦いが終わった時、無事で生き残ったのはベディヴィアひとりだったのである。
致命傷を受けたアーサーはベディヴィアにエクスカリバーを渡し、「湖に投げいれろ」と命じた。だが、ベディヴィアにはできなかった。その剣こそブリテンの栄光そのものであり、捨ててしまえば何もかも終わると感じたからだ。しかし、「捨てた」という嘘を二度まで見抜かれ、また「いつか再びエクスカリバーに相応しい王が現れる」と諭され、ついにベディヴィアは剣を捨てた。そうして戻ってみるとアーサーは姿を消しており、彼が小舟でアヴァロン島へ運ばれていくのが見えた、という。
その後、ベディヴィアは修道院に入って一生を終えたとされる。

もし、幻想が終わらなければ……

ベディヴィアはアーサー王伝説の終わりを飾るキャラクターだ。彼が幻想の存在であるエクスカリバーを地上から取り除くことで伝説の時代は終わる。もし彼がエクスカリバーを捨てなければ、さらにファンタジックな出来事が起き続けたかもしれない。あるいは、伝説の時代の生き証人である彼が、さらなる事件に巻き込まれるようなことがあっても面白いだろう。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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