トリスタンのライバル
パロミデスもまた円卓の騎士である。彼は「トリスタンとイゾルデ」の物語で有名な円卓の騎士、トリスタンのライバルとして知られる。トリスタンと恋仲のイゾルデに横恋慕し(どうも最初に恋をしていたのはパロミデスの方らしいのだが)、何かとちょっかいをかけてくる相手だ。
しかし一方でパロミデスは優れた騎士でもあり、トリスタンとの戦いや長い放浪の旅を経て、円卓の騎士になる。その過程では苦悩を振り払うかのように「唸る獣」というアーサー王伝説にたびたび登場する魔獣を追いかけ、結果として「獣を追いかけることに夢中になるあまり、因縁あるトリスタンと行きあっても無意識のうちに打ち倒してしまう」なるシーンも描かれる。恋から解き放たれれば、パロミデスはそれだけ強い騎士だったのだ。
しかし、パロミデスの成長は真っ直ぐには進まない。時にはイゾルデと再会してしまって蘇る恋に懊悩することもある。それでも最後にはトリスタンと堂々一騎討ちし、負けを認め、二人の間には友情が芽生えたのであった……。
中世初期にイスラム教徒!?
さてこのパロミデス、面白い話がある。回教――つまりイスラム教の騎士だというのである。しかし、アーサー王の活躍した時代にはまだイスラム教は誕生していない。おそらく、アーサー王伝説が盛んだった時代は十字軍活動が活発であったため、「余所者の騎士」として描かれたパロミデスに相応しい設定はイスラム教徒だ、と当時の人が考えたのだろう。
しかしその余所者、異教徒という設定が、パロミデスという男を憎らしい悪役として、また「やがてキリスト教という真実(当時の人からすれば)に目覚めていく」成長の物語の主役として、美しく飾っているのも事実なのだ。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。