イスラム世界周縁を歩く
マルコ・ポーロをヨーロッパにおける東方世界紹介者の代表者とするのであれば、イスラム世界におけるそれはイブン・バットゥータであろう。彼はイスラム世界周縁地帯を長年にわたって旅し、その記録をまとめた人物である。
モロッコのタンジールに生まれた彼の冒険の始まりは、聖地メッカへの巡礼旅行であった。エジプト、シリアを経てメッカに辿り着いたイブンは、そこから故郷へ戻る道を選ばなかった。その足は西ではなく東へ向かったのである。
以後、イブンは幾度かたびたびメッカに戻ったり、インドのデリーに滞在したりしつつ、中東各地やバルカン半島、東南アジア、そして中国へと、あちこちへ旅行した。その後、約四半世紀ぶりに故郷へ戻ったが、すぐに新たな旅へ出発。サハラ砂漠横断などさらなる冒険を成功させている。そんな彼が語った旅の記録を学者がまとめたのが、『リフラ』あるいは『都会の珍奇さと旅路の異聞に興味をもつ人々への贈物』(日本では『三大陸周遊記』もしくは『大旅行記』)と呼ばれる旅行記である。
その内容はあくまで彼の記憶に頼った部分が多く、また学者によって物語的に脚色されたところも多いようで、完全に正確かというと疑問が残る。しかし当時を知る史料として重要であり、またイスラム世界の外について人々が想像を逞しくするための参考書として大きな役割を果たしたであろうことは間違いない。
のちの冒険家たちに道を開く
マルコ・ポーロにせよ、イブン・バットゥータにせよ、彼らの偉業とその記録がのちのちの冒険・探索の手本になったことは疑いようもない。
記録を調べることができたからこそトラブルを回避できたり、あるいは逆に記録と事実が違ったならば「なぜ違うのか?」と掘り下げていくこともできる。記録者が間違えたのだろうか。それとも、わざと事実と変えたのだろうか。そこにどんな意図や陰謀があったのだろうか……。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。