見張りの神
ヘイムダルもまた、北欧神話のアース神族の一人である。彼は世界の始まりの頃、9人の女巨人から生まれたという古い神で、アース神族の主要な神々の中に数えられる。
しかし、ヘイムダルは他の神とは違った。彼は神話の時代を通して重要な役割を一つ背負い続けていたのである。それは「見張り」であった。
北欧神話の世界は大きく分けて三層構造になっている。一番下にあるのが死者の国であるヘルヘイム、その上に人間の世界ミドガルズがある(これを取り巻くのが巨人や魔物の地域ウートガルズ)。
そして、ミドガルズから虹の橋ビフロストを通れば神々の世界アースガルドに辿り着く。そのビフロストでの到着地点のそばに、ヘイムダルの居館があった。彼は虹の橋の向こうのミドガルズを、そしてウートガルズやヘルヘイムを監視しているのだ。いつか来るラグナロクの時、最終戦争の始まりを同胞たちに知らせるために。
いざラグナロクが訪れると、彼はアースガルドの中心に立つ世界樹ユグドラシルへ走っていく。そこにはギャラルホルンと呼ばれる角笛が隠してあり、ヘイムダルはこれを吹き鳴らす。それこそがラグナロクの始まりの合図である。ラグナロクにおいてヘイムダルは戦争の発端であるロキと戦い、相打ちになるという。
なぜ、何を見張る?
神話において多神教の神々はしばしば集団を構成する。単に集まっているだけということもあるし、人間の集団・組織のように明確な役割を持つこともある。北欧神話のアース神族は長こそ明確に決まっているが、他の神々については「この神はこの役割」と明確に定まっているわけではない。ただ、ヘイムダルだけは見張りの役割を与えられ、それを全うする。
あなたの作る神話において見張りの神がいるとしたら、それは何を見張っているのだろうか。また、ヘイムダルは「なぜ」見張るのかの話がないが、「何かの贖罪としてその任務を背負った」や「知的好奇心や過去の因縁など動機がある」としてもいいかもしれない。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。