エジプトの女王
唐の楊貴妃と並び、二大美女とたたえられるのが古代エジプトの女王クレオパトラだ。ただ、彼女は美貌であったというより教養があり、才知に優れた人物であったようだ。
彼女はエジプト王・プトレマイオス十二世の子として生まれ、父が亡くなった後は弟のプトレマイオス十三世と共に国を統治した。だが、弟と不和になり国を追われると、当時最も強力だったローマの力を求め、ローマの英雄カエサルの愛人となり、彼の後ろ盾で国を取り戻して女王となった。
カエサルの死後、その部下の中の実力者・アントニウスとカエサルの養子・オクタビアヌスが争っていた。アントニウスはエジプトの富を狙ってクレオパトラに接近したが、たちまち彼女の虜となってしまった。彼女はエジプトを守るために美しく着飾り、アントニウスを誘惑して後ろ盾にしてしまったのである。その後、アントニウスはエジプトの都アレクサンドリアで暮らし、キプロス島やシリアなどローマに従っていた国を彼女に譲ると約束さえさせてしまった。
これを知ったローマの市民たちは怒り、オクタビアヌスを支持する声が高まっていく。ついにオクタビアヌスはエジプトを攻撃し、アントニウスは自殺に追い込まれた。残されたクレオパトラはオクタビアヌスを誘惑するが、冷静な彼はそれに乗らなかった。クレオパトラは自らの最期を悟り、宮殿で毒蛇に乳房を噛ませて亡くなった。
賢く、誇り高く
賢い美女を描きたいなら、クレオパトラは第一の候補として挙げられるべき人物だ。カエサルの心を掴むにあたって「旅人が寝具を入れる袋に隠れ、カエサルの前に急に現れる」という演出をした彼女は人の心を掴むのがうまく、話していて楽しいタイプだったのだろうなと感じさせる。一方で望みが絶たれたと見るや、自殺に走ってしまうのも賢さ、プライドの高さゆえだ。キャラクター演出に大いに参考になるだろう。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。