No.42 原作:佐藤多佳子・作画:勝田文『しゃべれどもしゃべれども』

榎本海月の連載

原作:佐藤多佳子 作画:勝田文『しゃべれどもしゃべれども』(白泉社、全1巻、2007)
初出:『MELODY』(2007)

落語家としゃべり下手たち

今昔亭三つ葉は生真面目な性格もあって「何をやっても師匠の物真似になる」といまひとつ殻が破れない若手噺家。そんな彼がひょんなことから落語を教えることに。と言っても弟子をとったわけではない。話すのが上手くない四人に「しゃべり」の訓練として「まんじゅうこわい」を教えることになったのだ。
美人だけれどぶっきらぼうな女性、イケメンだが気弱で職場に馴染めないテニス講師、関西弁のせいでいじめられている小学生、それから途中で参加する解説者失格の元プロ野球選手。彼らの事情もそれぞれ重いが、三つ葉だって太平楽ではない。着物を着て街を歩いてみても、落語が描いている古の江戸は遠くになるばかり。落語の腕も上達しないし、恋も破れた。不器用な五人、それぞれの落語修行やいかに――。
映画化もされた同名小説のコミカライズ版。もちろん原作や映画から見てもいいのだけれど、ほんわかとした絵のタッチとストーリーがマッチしているので、漫画から入るのがおすすめ。

コミュニケーションは難しいけれど

現代を舞台に奇想天外なシチュエーションやアクション抜きで物語を描くなら、「読者にも共感できる悩みや問題に登場人物たちがどう立ち向かっていくか」は重要なポイントだ。
本作の場合、上手く「しゃべれない」という悩みは「周囲に馴染めない」問題と直結している。人間は言葉によるコミュニケーションを重視する生き物だから当然だ。
そこで「しゃべる」芸である落語を物語の中心に置くことで、しゃべってもしゃべっても周囲と繋がれない苦しみと、しゃべる喜びを見出す物語にしているのが上手いし、大いに参考になるはずだ。

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『しゃべれどもしゃべれども』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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