第42回「風呂②」ヨーロッパの事情

ファンタジーを書くために過去の暮らしを知ろう!

ローマ人と風呂

西洋の風呂はどうだろうか。
特に入浴を好んだ人々として、古代ローマ人たちがよく知られている。漫画『テルマエ・ロマエ』ではテルマエ、つまり公衆浴場とそこでの入浴を愛してやまなかったローマ人たちの生態がよく描かれていて、風呂好き民族たる現代日本人としては非常に親しみを感じるところがある。
彼らの都市には数多くの公衆浴場が建てられたし、歴代の皇帝は己の権威の象徴として自らの名を冠した浴場を作った。それどころか、遠くブリテン島(今のイギリス)に派遣されたローマ軍の駐屯地にさえ浴場の跡があったというところに、彼らの執念を感じる。なお、公衆浴場はやがて現代のスーパー銭湯にも通じるような多様なレジャー施設になっていくが、一方で売春のような如何わしい要素もくっついていくことになるようだ。

中世の風呂、近世の風呂

しかし、ローマ帝国が崩壊して時代が中世に入ると、これら浴場も消え、わざわざ湯に入るという習慣がヨーロッパの人々から失われていく。
理由としてよく語られるのはキリスト教の布教で、入浴が贅沢であり、清潔を求めようとするな、という教えがあったとされる。もちろんそれもあったのだろうが、別の、もっと切実な要素があったのではないか。どちらかといえばローマ人たちの入浴習慣を支えたインフラ、つまり長大なローマ水道が都市につながって大量に水を供給していたからこそ、入浴の習慣が維持されていたのではないだろうか。しかし帝国が消え、人員の動員と技術の保存ができなくなれば、インフラの維持は難しい。こうしえ入浴の習慣が薄れたのではないか。
さらに言えば、中世ヨーロッパにおいても入浴の習慣はまったく失われていたわけではなかった。12世紀ごろから新たに都市や農村のあちこちで公衆浴場が作られ、人々の憩いの場所として愛された。また、これらの浴場はいわゆるアジール、犯罪者が逃げ込むこともできる場所としての性質もあったという。しかし15世紀、ルネサンスの時代がやってくると、またヨーロッパから入浴の習慣が失われていく。以後、かなり最近までヨーロッパに入浴の習慣は根付かなかった。これは、人口はどんどん増えるのに水の供給は追いつかない、という事情があったようだ。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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