第34回「“天下”の概念」

ファンタジーを書くために過去の暮らしを知ろう!

天下は全国?

私の専門分野は大きく分けて2つ。1つはまさにこの連載のようにエンタメの紹介や創作のためのアドバイス。そしてもう1つが歴史の紹介だ。日本史・戦国時代を中心に、わかりやすく面白く紹介することを心がけている。
戦国時代は大河ドラマやゲーム、アニメなどでもよく知られた時代だが、意外に誤解されていることも結構ある。その一つが「天下」にまつわる誤解だ。
私たちは「天下」というとどうしても「日本列島全部」をイメージしてしまう。つまり「全国」と同じ意味だ。戦国時代の武将たち・大名たちは誰もが皆「天下」を意識し、これを統一せんと考えていたーーそう思っている人がほとんどではないだろうか。
しかし、これは少なくとも戦国時代的には正しくないのだ。今回と次回はこの辺り、つまり「天下」の「いま」「むかし」とそれを目指して戦ったとされる武将たちのことを紹介しよう。

天下は畿内?

「いま」は全国、日本全土という意味で使われる天下という言葉は、戦国時代にはもっと狭い地域を示していたらしい。京の都を中心に、畿内(近畿地方)一円程度がこの時代の「天下」であった。織田信長が印鑑に使ったことで有名な「天下布武」の言葉があるが、あれもあくまで畿内程度のことであったという。
このように、時代次第で言葉が示す地域の広さや形が違うということはよくある。たとえば中国などはまさにそうで、私たちがいま中国というといまある中華人民共和国の領域を想像するが、実際には長い歴史の中で中国諸王朝の支配領域は広がったり狭まったりしている。簡単に「ここが中国」「ここは中国ではない」とは言えないのが困りものなのだ。あるいは日本だって、平安時代くらいまでは東北地方は「日本」に入っていなかったし、北海道や沖縄が日本の中に入るのはもっとずっとあと、江戸から明治にかけてのことである。この辺りの感覚は歴史ものを書くときには意識するべきだし、また独自に地域や世界を作るときにも活用したい概念である。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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