芥川龍之介・作『蜘蛛の糸』
〈あらすじ〉
大悪党のカンダタは死後地獄へ落ち、呵責にさいなまれていた。それを極楽浄土から見ていたお釈迦様は、カンダタが生前蜘蛛を殺さずに助けるという善行を行ったことを思い出し、救いのチャンスを与える。そばにいた極楽の蜘蛛の糸を地獄のカンダタの前へ垂らした。血の池地獄にいたカンダタはそれをするするとのぼっていく。
途中疲れたので休憩していると、下から亡者たちが次々にのぼってきているのが見える。細い細い糸が切れてはたまらないと、カンダタはこの蜘蛛の糸は俺のものだから下りろとわめく。その途端、蜘蛛の糸はカンダタのぶら下がっているところからぷつりと切れてしまう。
地獄ではすべてが裁判材料
芥川龍之介・作『蜘蛛の糸』。以前取り上げた『杜子春』などとセットで文庫本になっていることも多い有名な作品です。これもとても短いので、サクッと読めます。
某地獄マンガ(アニメ化もしました)で地獄が舞台になっていましたので、想像しやすい人も増えたのではないでしょうか。
私もそれを見て知ったのですが、地獄(あの世)ではあらゆることが裁判の材料になります。例えば「三途の川」。なぜ「三途」というのかというと、渡る場所が三か所あるからです。亡者の生前の罪によって渡る場所が変わるのだそう。しかもその判断材料(アイテム)は亡者の衣類。三途の川のほとりにある木に亡者の衣類をかけると、罪の重さに比例してしなるんですって。なんつーミラクルアイテム。地獄には裁判のためのそういうミラクルなアイテムがたくさん出てきます。それだけでも創作に生かせそうですよね。思えば世界的に大ヒットした某魔法学校小説だって、不思議な動物やら魔法アイテムやらがわんさか出てきますから。
で、話を『蜘蛛の糸』に戻します。つまりこれは、地獄から救済されるための一つの試練だったのでしょう。蜘蛛の糸なんてほっそいもの、普通つかもうとしただけで切れますよね。まあ、これもミラクルアイテムといいますか、極楽浄土の蜘蛛ですから普通とは違うのでしょう。とはいえ下に何人もぶら下がっているのに切れないなんて、某スパイ〇ーマンもびっくりの強度です。
そんなびっくり強度な糸が、カンダタが叫んだ途端に切れてしまう。これはもう、叫んだ衝撃だとか、叫んだ拍子に強く握りすぎたとか、そういう物理的な話ではないはずです。いやこれが某派出所マンガだったらそういう展開もありそうですけれど(本日は「某なんとか」をいつもより多くお送りしております)。
つまりはこれも裁判のひとつと言えるのではないでしょうか。現代日本風に言うと、有罪確定して収監されたあとに再審のチャンスが巡ってきた、ということですよね。カンダタはそれを自らフイにしてしまうのです。
善行ってなんぞや
ここではたと考えてしまうのは、大悪党のカンダタが蜘蛛を一匹助けたくらいでなんで再審? てことです。しかもカンダタ、この蜘蛛一度は殺そうとしてますからね。困ってる蜘蛛を助けてやったとかじゃないんですよ。
「善行」とはそんなに大仰に考えなくてもいいのでしょうか。とある仏教の宗派は一度合掌し「南無阿弥陀仏」と唱えれば阿弥陀仏が救ってくれる、という教えだそうですし。小さなことからコツコツと、ということでしょうね!(雑なまとめだなあオイ)
地獄も結構面白い
罪も地獄もめちゃくちゃあって、実は調べるの結構大変そうなのですが。私でも知っている地獄ネタといえば、閻魔大王は実は最初に死んだ人間なのだそうです。
そして閻魔大王は大抵赤い顔で描かれますが、それは熱した銅を飲むという罰を受けているから。閻魔大王が罰を受ける理由がなんだったかは、記憶が定かではなく……ごにょごにょ。興味のある方は調べてみてくださいね。
先に挙げた某地獄マンガや、数年前に地獄を題材にしたコメディ映画もヒットしました(某元天才子役が主演で、想い人とキスすらしてないのに! と転生を繰り返すストーリーです)。あとは作品ではありませんが、小野小町の記事で一緒に紹介した小野篁も地獄にゆかりの深い人物で、まさしく創作のネタになりそうな人物です。
こういうネタはいろんな宗派や時代、国や解釈によってかーなーり色んなパターンがあったり不明な点も多かったりするのですが、それはそれ。そのままである必要はありません。例えば小野篁その人を登場させるならある程度史実や伝説に基づく方がいいのでしょうが、その要素だけを抜き出してまったく別物を作り上げるという方法もアリです。もちろん日本だけでなく海外のものを題材にするのもアリ。あの世の概念は神話に通じるものもありますので、ファンタジー世界を作り上げる上でも結構使えます。 だから書店や図書館の神話コーナーをうろうろしちゃうんだよなあ。これってクリエイターあるあるですかね?

【執筆者紹介】粟江都萌子(あわえともこ)
2018年 榎本事務所に入社。
短期大学では国文学を学び、資料の検索・考証などを得意とする。
入社以前の2016年に弊社刊行の『ライトノベルのための日本文学で学ぶ創作術』(秀和システム)の編集・執筆に協力。