『おじいさんのランプ』―ブーメランって当たったらたぶんめっちゃ痛い

粟江都萌子のクリエイター志望者に送るやさしい文学案内

新美南吉・作『おじいさんのランプ』

〈あらすじ〉
 書店の子である東一は、倉で古いランプを見つけ、持ち出したことを祖父に叱られる。その夜、東一は祖父から巳之助という一人のランプ売りの話を聞かされる。
 巳之助はみなしごで、村の手伝いをしながら生きていた。そんな自分の状況を打開したいと思っていた巳之助は、ある日町でランプに出会う。文明開化によってもたらされた見たこともない明かりは、巳之助の村にはないものだった。巳之助はランプ売りになることを決意し、それを村で売り広めることに成功する。ランプ売りとして成功した巳之助は家や妻を得るに至る。
 数年後、町で今度は電気というものを見る。ランプよりよほど明るい電気を見て、巳之助は危機感を覚える。とうとう村に電気が引かれることになり、自分の商売が成り立たなくなると思った巳之助は村の区長を逆恨みし、家に火をつけようとする。しかしマッチが見つからず火打石を持ち出した巳之助はうまく火をつけられず「古いものは役に立たない」と言う。自らの言葉に我に返った巳之助は、ランプがもう古いものになってしまったと悟る。巳之助はランプ売りをきっぱりやめて、町で本屋を開いたのだった。

スルメのように味わってください

 今回紹介するのは新見南吉作『おじいさんのランプ』です。
 とても短いお話なので、あらすじを読むよりさくっと本文を読んでからこの記事を読んでいただくのもいいかもしれません。青空文庫にもありますので、ネット環境のある方は是非どうぞ。って、ネット環境ない人はこの記事も読めないか。失敬失敬。
 電球どころかLEDも普及して久しい昨今、ランプのお話というのはちょっとピンとこない若者もいるかもしれませんね。かくいう私もアラサーですが、当然ランプ世代ではございません(そりゃそうだ)。しかも作中で出てくるランプが、通常連想するランプ(も、人によってさまざまかもしれませんが)とは違う形をしていて、東一君たちでさえ昔の鉄砲と間違うような珍しいフォルムらしいのです。それでちょっと「はて、どんなランプやら」と首をかしげたりもしました。ですがそれは想像しづらいというマイナス要素ではなく、かえって古い時代のもので現代にはそぐわないものであるということを象徴しているかのようでもあります。
 正直、童話とは小学生以下の子供たちが読む単純な物語だと思っていました。それは教訓めいた話もあるでしょうが、所詮は子供の読み物。あけすけに言えば、私は童話を下に見ていたのです。
 ですが数年前、すでに成人してからこの作品に触れたとき、むしろ大人になった今のほうが教訓として深く感じるかもしれないと思いました。子供のころに触れておいてほしい。大人になってかみしめてほしい。そんな深みがある作品です。
 それに今作はとても短い作品です。描写はそう細かいほうではないと思います。けれど町の描写や巳之助の心情など、とてもすんなり想像することができます。たしかに古いランプの形には首をかしげましたけれど、それは私の知っているランプの形と違うからであって、形容が下手というわけではありません。
 言葉はシンプルで少ないのに伝わるって、実はすごいことですよね。特に私は文章を短くまとめるのがとてもとても下手なので尊敬します。そういう点でも「あ、そっか。童話や児童書なんかを参考にすればいいのか」という発見もありました。

人間くさい巳之助

 逆恨みして火をつけようとした巳之助は、とても利己的な人間です。いくらなんでも放火という発想を人として肯定することはできません。
 けれど商売を成功させるまでの努力、商売を成功させてからも字を学ぶなどの努力を重ねていたことは好感が持てます。それに自分の商売を失うかもしれない焦りや逆恨みしてしまう感情は、共感する人も多いでしょう。そのぶつけ方は突飛で利己的だったとしても。
 焦りや危機感で直情的になってしまう巳之助ですが、それは一時的でした。自分の怒りやそれをぶつけたいという思いを正当化するために「相手が悪いのだ」という理由付けをしてしまうということは、大なり小なり誰しもが経験していることではないでしょうか。
ただ巳之助の偉いのは、「古いものは役に立たない」と無意識に口走った言葉で我に返るところです。自分の間違いに気づいても、それを素直に改められる人というのは存外少ないのではないでしょうか。しかも誰も見ていないのです。勝手に逆恨みし、勝手に失敗し、誰にとがめられることもなく自分で勝手に気づいた。最初から最後まで巳之助の勝手です。そして電気の時代が来るとはいえ、まだ売れたであろうランプを一斉に処分してしまう。誰にでもできることではありません。
 「古き良き」という言葉があります。古いもの、伝統的なものでいいものはたくさんあります。それだけでなく、思い出に残るがゆえに古く不便でも、懐かしむこともあります。おじいさん(巳之助)も、ランプを見て懐かしむシーンもあるのですから。けれど古き良きものを尊ぶことと、新しいものを受け入れないことは別物です。新しいものはそれだけデータが少ないということでもありますから、慎重にはなるべきでしょう。けれど変化を恐れて拒否していては、人間は成長できないということなのでしょうね。

【執筆者紹介】粟江都萌子(あわえともこ)
2018年 榎本事務所に入社。
短期大学では国文学を学び、資料の検索・考証などを得意とする。
入社以前の2016年に弊社刊行の『ライトノベルのための日本文学で学ぶ創作術』(秀和システム)の編集・執筆に協力。

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