桜の魔力は男たちを惑わせる

粟江都萌子のクリエイター志望者に送るやさしい文学案内

書き忘れじゃありません!

どうもこんにちは。こんばんは? おはようございます? むしろもう寝てくださいな時間? ま、いつでもいいです。読んでくださってありがとうございます!(雑)
 記事タイトルに作品名も人名も入っていないのは忘れたわけじゃないよ! というのも、今回取り上げるのは2作品。どちらもタイトルに桜が入っています。そーです、日本人が大好きなあの花です。

梶井基次郎『桜の樹の下には』
坂口安吾『桜の森の満開の下』

の2本でございます。
 どちらも短編なのでサクッと読めちゃうと思います。
 とはいえ、内容は「サクッと」というわけにはいかないかもしれません。あっ、ネガティヴな意味じゃないですよ! それだけ奥が深いということです。たまに出会うのですが、短くまとまっていて多くを語らないからこそ奥が深い作品というものがありますよね。

未成年の主張(嘘、成人してました)

 まず『桜の樹の下には』。とても短い文章なので、あらすじを書くまでもないでしょう。
「桜の樹の下には屍体が埋まっている!」という言葉を聞いた(読んだ)ことがある方も多いのではないでしょうか。それはまさしく『桜の樹の下には』の第一行目の言葉なのです。そしてだからこそ桜は美しく咲くのだと語られています。
 「屍体」と聞くとどうしても人間の死体を連想しますが……え? しない? そんな物騒な思考をするのはお前だけだって? いやいや、そんなことないでしょう。嘘をついたって駄目ですよーお見通しですから(何キャラだ)。
 まあとにかく、桜の樹の下には様々な生き物の屍体があって、樹の根がそれらを吸い上げて咲くのだと。それに感動する語り手の感動が、勢いのある文章で訴えかけてきます。
 なぜ「未成年の主張」なんて小タイトルをつけたかというと、文章がなんというか、興奮気味に思えたからなのです。まず第一文からして「!」マーク。人は自分の好きなものや新しい発見を語るとき興奮してまくし立てる、なんてことは往々にしてあると思いますが、まさにそんな感じの文章なのです。
 その勢いというか熱量というべきか、そういったものが昔バラエティ番組であった学校の屋上から思いの丈を叫ぶコーナーに似ているような気がしてこう書きました。え? 似てない? まあ、あくまで勢いの話です。え? そんな番組知らない? えーと、復刻番組をやっていることもあるので、あなたが知らないとしたらそれはたまたまですよ。け、決して私の年齢のせいじゃありませんよ!(動揺) 年齢といえば、『桜の樹の下には』の発表が1928年。梶井基次郎は1901年誕生ですから、立派な大人でした。
 勢いのある文章はテンポよく読みやすく、けれどその表現そのものは梶井基次郎の独特さを感じます。なんか読めちゃうけど、すぐ共感できるかというと、一瞬考える。そして目を閉じて空想するのです。彼が語る桜の樹を、その土の下を。さあ、あなたは共感できるでしょうか。

満開の桜の森を恐れる山賊

 そしてもう一作品、『桜の森の満開の下』。桜の下に人がいないと恐ろしいばかりで、大昔の人々は桜を恐れていたと前置きしたうえで物語が始まります。
 鈴鹿峠に住み始めたむごたらしい山賊は、とある美しい女に出会い、その夫を殺して女を強引に自分の妻にします。しかしこの女がまた妙な女で、山賊の妻になると次々と残忍な無理難題を山賊に押し付けるのでした。女の希望で山賊と女は都で暮らし始めましたが、都は山賊にとって退屈な場所でした。山に帰りたいという山賊に従い、夫婦は山に帰るのですが、そのとき満開の桜の森に差し掛かり―。結末は、どうぞご自身で確かめてみてください。
 この作品では、山賊も女も、かなり残酷な性格に描かれています。けれどそんな山賊も、桜の森を恐れている。花が咲いていないときは良い、けれど桜が咲いているときはだめだというのです。
 山賊と女が辿った結末は、桜の樹が惑わせたせいなのか。そんな風に思わずにはいられません。
 残酷な描写も多い今作ですが、ラストシーンは幻想的で美しさを感じさせます。どこか「怖い」「グロい」という印象が薄いのは、こういった描写の美しさからくるのかもしれません。難しい言葉や凝った表現をするわけではないのですが、率直な言葉はシーンをありありと想像させます。或いは読者自身が、桜に惑わされているのかも……と思えるくらい。ぜひ、内容だけでなく文章の素朴な美しさも味わってほしい作品です。
 こちらは弊社・榎本事務所による執筆・編集の『文学で「学ぶ/身につく/力がつく」創作メソッド』(DBジャパン)にも掲載されています。解説だけでなく女流作家のコメントも読むことができますので、併せて是非(自社本の宣伝です)。

清楚そうな魅惑の花?

 桜ほど日本人を惹きつけ、それなのに咲いていない時期は忘れられている樹もないのではないでしょうか。私はよく、花が咲くまではそれが桜の樹であることも忘れてしまいます。そして「花見」というとイコール桜。梅が咲いたってツツジが咲いたって「見に行こう!」という人はいるでしょうが、桜のお花見ほどにはメジャーではないでしょう。
 桜は品種にもよりますが、一般的にイメージするのは淡いピンク色。どぎついパステルカラーではなく、花も小ぶりです。性格をイメージするなら「清楚」や「控えめ」という感じでしょうか(さらりと擬人化する中二脳)。けれど大勢の人々が毎年いそいそとお花見に出かけている時点で、それだけ人々を惑わしているとも言えます。
 え? 「ちょっと無理がある」? いえいえ。桜を恐ろしいもの、美しいが怖い一面もあるなどというように扱っている作品は、この2作品だけではありません。オカルト的なものを信じるか否かは別として、それだけ日本人にとっては重要な花なのでしょう。桜になじみのない外国の方が、桜やこういった作品をどう感じるのかも興味がわきます。 今回ご紹介した2作品はもちろん、ほかの作品でも桜がどう扱われているのか、読み比べてみるのも面白いと思います。もしかしたら「綺麗な花」以外の予想外の一面を知ることになるかもしれません。

【執筆者紹介】粟江都萌子(あわえともこ)
2018年 榎本事務所に入社。
短期大学では国文学を学び、資料の検索・考証などを得意とする。
入社以前の2016年に弊社刊行の『ライトノベルのための日本文学で学ぶ創作術』(秀和システム)の編集・執筆に協力。

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