◇11回「失恋」

榎本海月の物語づくりのための黄金パターン+α

破れる恋もある

 恋愛は非常に人気のあるテーマだ。その理由の一つに、常にうまくいくとは限らない……という点があるのではないか。叶う恋があるなら、叶わない恋もある。誰かが選ばれて、誰かが選ばれない。あるいは、かつては確かに恋が成就したのに、時の流れや互いの喧嘩のせいで恋が失われてしまうことも珍しくない。恋人たちが恋を失っても愛情や連帯感で結ばれて夫婦、家族、パートナーになるのは自然な流れと言えようが、恋がなければ一緒にいる意味がないとなれば別れるしかない……。そうした失恋の悲しさ、寂しさ、辛さがあるからこそ、恋愛というテーマが美しく飾られるのではないか。
 失恋はドラマチックに起きることが多い。告白して振られる、付き合っているのに別れを告げられる、恋人の不貞を目撃してしまうといったケースだ。一方で、ふっと静かに恋が失われることもあるだろう。遠距離恋愛で互いに心が離れてしまったり、相手の魅力を失うような振る舞いを繰り返し見せられて心が萎えてしまったり、というようなケースだ。

悲しいだけとは限らない

 ただ、恋愛劇の結末が単純に悲しい失恋で終わってしまうと、エンタメとしては少々寂しすぎるかもしれない。そこに至るまでのエピソードがしっかり積みあげられ、主人公やヒロインが魅力的に描かれていればいるほど、恋が失われる、あるいは無残に破れる結末は辛いものだ。
 それでは、エンタメで失恋は描かない方がいいのか? そんなことはない。恋が失われるまでの展開次第、あるいはそこに至る気持ちの流れ次第で「ポジティブな失恋」とも言えるものが描ける。自分の思い込みから解き放たれたり、二人の関係が発展的に解消したり、といった方向だ。恋に破れて悲しいことに変わりはなくとも、相手が祝福できれば前向きだ、と言えるかもしれない。そこには成長もある。
 そもそも失恋から始まる物語も結構ある。振られ、別れを告げられ、ショックのどん底から再起するのは、なかなかベタなシチュエーションと言えよう。

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【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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