第10回「食材と道具は時代により」

ファンタジーを書くために過去の暮らしを知ろう!

「むかし」はなかった定番食材

「むかし」の食事をもう少し掘り下げてみよう。「いま」と比べた明確な違いが食材の少なさだ。それも、「え、その地域の料理に欠かせない食材でしょ」と思ってしまうものがなかったりする。
つまり、「和食の味付けに欠かせない醤油」「日本の鍋といえば白菜」「韓国料理といえば唐辛子」「ドイツ料理はジャガイモばかりのイメージ」「イタリア料理はトマトがなければ始まらない」、これに加えてトウモロコシもそうだ。これらの食材や調味料は、比較的最近になってその地域にもたらされたものであり、伝統的な食材などでは実はなかったのである。
この中で唐辛子・ジャガイモ・トマトの話はよくよく語られるし、知っている人も多いだろう。意外と知らない人が多いのが醤油と白菜の話ではないか。
醤油の誕生は戦国時代と江戸時代の境目あたりではないかと考えられている。ルーツはおそらく味噌だ。もともと古代から魚醤や肉醤、そして現代の味噌に至る豆醤といった発酵調味料はあって、そのうち味噌から滲み出てくる液体が醤油のルーツになったのだろうと考えられている。
一方、白菜が日本で食べられるようになったのは実は明治の終わりから大正にかけてだ。それ以前から白菜は入ってきたが定着せず、この時期になってようやく現在私たちの知る白菜が入り、定着したのである。だから、江戸時代を舞台に白菜の鍋をつついているシーンを書くとおかしいということになってしまう。ちなみに、白菜よりもよほど「洋」っぽい印象があるであろうキャベツは江戸時代にはすでに「甘藍」として入っている(ただし結球しない種類)し、幕末から明治にかけて普及を始めている。

スプーンとフォークの歴史

「いま」と「むかし」では食器も結構違う。たとえばヨーロッパの「固く焼いたパンを皿の代わりに使った(そして食べずに捨てるなんてことも)」話や、日本の「テーブルに付いて食事をする習慣が長く、個人ごとに目の前に置かれた」話が面白いだろうか。
物語のネタになりそうなものとして、フォークの変遷がある。「いま」、私たちは洋食を食べる時にスプーンと一緒にフォークを使うのは当たり前としていることと思う。
ところがこれはかなり新しい部類のアイテムで、出現は16世紀頃(ヨーロッパ全体への普及は17-18世紀)なのだ。それ以前、何で食べ物を持ち上げて口に入れていたのか。答えは「手」だ。たとえばパスタなどもあの麺を手で掴んで食べていたという。ちなみにスプーンは16世紀頃普及というから、フォークほどではないがやはり新しい。
また、普及当初のフォークは2本歯であったというから、肉などを刺しても結構落ちてしまったのではないか。これが後に歯の数を増やして、「いま」の私たちが知るフォークになっていく。)

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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