第7回「奴隷解放と物語」

ファンタジーを書くために過去の暮らしを知ろう!

自由の価値

創作の中で奴隷という存在を出すのなら、奴隷から解放されることは幸福か、ということも考えていかなければならない。もちろん、死につながるような過酷な労働から解放されるのは、多くの人にとって幸福に違いない。財産が持てる、家族が持てる、主人から理不尽な扱いをされない、というのも、ほとんどの人にとって価値のあることであるはずだ。
しかし、自由な行動選択ができる、という点については立ち止まって考える必要がある。自由を良しとするのはかなり近代的な考え方であるからだ。近代以前なら、自由を良しとするよりも「戦争や暑さ寒さ、飢餓などの恐怖に怯えず、安全な場所で安定した生活ができる」を良しとする人の方がずっと多いだろう。
奴隷として暮らした時期が長ければ特にそうだ。主人の命令に従えば安定して暮らせるのであれば、その立場から「解放」されることは自由の喜びよりも不安の恐怖の方が勝つだろう。主人に従う以外に生計の立て方を知らなければ尚更である。結果、自分たちを「解放」してくれた恩人に対して刃を向けるようなことも十分ありうる。
もしあなたが奴隷解放の物語をハッピーエンドで終わらせたいなら、解放された奴隷たちの「その後」を考えてあげる必要があるだろう。彼らが耕していた土地を自分のものとして耕し続けられるようにしたり、新しい土地の開拓に取り掛かれるようにしたり、工場労働のような別の仕事を用意したり、という具合だ。

物語と奴隷

繰り返すが、「いま」と「むかし」ではものの考え方が違うし、「むかし」であっても時代と地域で事情はさまざまだ。
鉱山などで「使い潰す」ことを前提に使われる奴隷もいれば、慈悲深い主人に大事にされる奴隷もいて、一部権利を制限されただけで奴隷とは言い切れない立場の人々もいる。主人と奴隷が民族や文化を共通するケースもあれば、異民族を遠くから連れてきて文化や風習を取り上げてしまうケースもある。あなたが物語の中で書きたいのはどういう奴隷なのか、それを「いま」と「むかし」の視点から二重に考える必要があるのである。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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