◇4回「アンチクライマックス」

榎本海月の物語づくりのための黄金パターン+α

アンチクライマックスとは?

アンチクライマックスというのはもともとは修辞法(文章の書き方)のひとつだが、時に物語でも使われることがある。クライマックスは文章や物語のラストに待っている盛り上がり及びそこに向けて全体を盛り上げていく話の作り方だ。
そのアンチ(反)ということで、アンチクライマックスの物語は気持ちを盛り上げていかないやり方である。修辞法としては「序盤に興味を引くような言葉、印象的なエピソードを入れる」ということになるようだが、物語ではちょっと意味合いが変わる。(そのキャラクターにとって)特別なことが起きない当たり前の日常を描いたり、結末を飾るような特別な事件や対決、真相の暴露がなかったり、あるいはバッドエンドと呼ばれるような悲劇的な(それでいてあっけなくあっさりしている)結末の物語をもって「アンチクライマックス」と呼ばれるようだ。
これだけではわかりにくいかもしれないので、もう少し具体例をあげてみよう。「普通の人が朝起きて会社に行って家に帰ってきて寝る」や「殺し屋のチームが仕事を終えた後突然仲間割れをして主人公が殺される」などがアンチクライマックス的と言えるだろうか。

個性は出るが難しい

物語パターンとしてのアンチクライマックスにはどんな利点や魅力があるのだろうか。
最も注目するべきポイントは個性化だ。つまり、普通の物語はクライマックスに向けて盛り上げることで面白さを作り上げるわけで、それを否定するアンチクライマックスの物語は必然的に個性的になる。しかしその一方でうまくやれば絶対面白くなるパターンをあえて放棄しているわけだから、エンタメとして面白くするにはかなりのテクニックが必要になる。
大事なのは、テーマと密接に絡めて必然性をアピールすることだ。アンチクライマックスほどの特別なやり方は「こういう理由でこうしたんだな」とはっきりわかる形でなければ読者の側に不満が募るし、わざわざそのパターンを使う意味もない。なんの変哲もない日常の中から立ち上るキャラクターの個性や異常性だったり、あっけない破滅や死が物語のテーマを浮き上がらせるようであれば、シンプルなエンタメとしての面白さはなくとも、時に文学的と言われるような面白さを作ることはできる。
ただ、そのような面白さを追求するにしても、長い作品にはあまり向かないかもしれない。長い作品は主人公に感情移入したり、物語に思い入れを持ったりする部分が大きく、アンチクライマックスはこの点で不利だからだ。

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【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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