♠10回「餓えて死ぬ限界はどこにあるか」

榎本海月の物語に活かせるトラブル&対応事典

飲まず食わずの限界

何かしらの特別な手当てをしていない限り、飲まず食わずだと人間は死ぬ。私たちの体は食事から栄養を取るようにできているからだ。
では、具体的にどこまで飲まず食わずだと死ぬのか。全く何も口にしない、点滴などで栄養を取らない状態だと、人間は1週間から2週間(幼児なら1週間)程度で死ぬとされている。ところが、水だけは口にする状態だと、30日から40日は生存するとされる。餓えよりも乾きのほうが死に直結する、というのはちょっと面白い話だ。
そのため、サバイバルにおいては水の確保が重視されるが、一方で生水や汚染された水を飲むと下痢になり、通常以上に体内から水分を失ってしまうことになる。そのため、植物あるいは果実から水分を得たり、あるいは沸騰した湯気や太陽光での蒸発などからきれいな水を集める必要がある。
絶食状態になった時、最初に襲ってくるのは激しい空腹感だ。腹が減った、というやつである。ところがこれは1-2日程度で消えてしまう。代わりにやってくるのは口の乾き、胃を圧迫される感覚、目眩だ。更に外見にも変化が起きる。皮膚や舌が乾き、目は落ちくぼむ。それでもなお食事を取れない状態が続くと、肉体と精神の両面から衰えが進み、幻覚を見たり妄想に取りつかれたりしたうえ、ついには意識を失って死に至る。
ちなみに、飢餓による死は、必ずしもカロリーの不足によって起きるとは限らない。人間の体を動かすのはたしかにカロリーなのだが、タンパク質が一定量取れなければ生命を維持することはできないし、ビタミンが不足すればさまざまな病を引き起こす。
有名なのは大航海時代の船乗りを襲った壊血病で、ビタミンCが不足して歯茎から出血などの症状が出る。これに対処するため、キャベツの塩漬け(ザウアークラウト)や柑橘類の絞り汁が船に積み込まれた。
そのような特殊な栄養成分を求めて、しばしば通常食用にしないものを口にする、という現象も存在する。たとえば、子どもが灰や壁を食べだして何かと思えば、それは不足していたカルシウムを補うためだった……という具合である。

絶食からの回復

餓えという問題を解決するためには、食べて栄養を補給する、ということになる。しかし、長期間絶食状態にあった生物が食料を確保したからといって以前と同じように食事を摂取するのは危険だ。
一般に、絶食状態(宗教や治療などの目的で意識的に断食していたケースを含む)場合、重湯などの胃腸に負担を与えない食事から少しずつ固形物へ移行する。そうでない場合、食事が原因になって死んでしまうことさえあるのだ。これはリフィーディング症候群といい、人体が飢餓に耐えるよう代謝を抑えているところに大量の栄養がもたらされると、血中の電解質が一気に細胞内に移りすぎてしまうことでもたらされるのだという。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース(https://www.ndanma.ac.jp/nma/course/novel/)】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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