♠3回「国籍・戸籍のないキャラクターの難しさ(後)」

榎本海月の物語に活かせるトラブル&対応事典

問題のない場合、さらに困る場合

前回の内容を前提に、物語の中で可能な解決法は何だろう。
もし、彼(彼女)が不思議な存在としてベテランであるなら、国籍・戸籍関係の問題は存在しない可能性も高い。
つまり、何らかの方法で国籍や戸籍を取得していたり、官憲や監視の目をすり抜ける能力を持っていたり、普段は野山で動物のように暮らしているから人間社会と接する必要がなかったりするケースだ。逆にいえば、長年に渡って不思議な存在として暮らしていられるのは、このような手段を持っているからだ、という理由づけになるわけだ。
しかし、生まれたばかりであったり、状況が変わったり(庇護者を失ったり、住んでいた森を追われたり)というケースでは、そうもいかない。対策が必要になる。
現代社会と深く接触をしないなら、無国籍・無戸籍状態でも生きていけるだろう。部屋に閉じこもっている状態ならもちろん、ちょっと外へ出たり、コンビニで買い物をするだけで警察に捕まったりするようなことはちょっと考えられないーー少なくとも現代社会では。周囲とトラブルを起こしたり、何かの騒ぎで注目を集めてしまったり、もともと噂好き・密告好きな人が近くに住んでいるとかでなければ。
もし、あなたが物語の舞台にするのが近未来であるなら、ちょっと事情が違うかもしれない。現金がほぼ廃止されて買い物をするのにIDが組み込まれた電子マネーカードが必要な社会や、監視カメラが不審人物を探しているような社会では、無国籍・無戸籍なキャラクターがそのことを理由に捜索され、逮捕される可能性がある(中国などはすでにこれに近い社会になっているともいう)。

無国籍・無戸籍で生きていくキャラクター

監視社会であるか、あるいは社会にきちんとつながって(銀行口座を作りたい、学校に行きたい、など)生きていくのであれば、何らかの手段を用いる必要がある。一番いいのは国籍・戸籍を手に入れることだ。合法的には裁判所に訴え出る手があるが、これは非常に困難である。そこで非合法な手段が必要になる。国籍・戸籍が電子情報で管理されている社会なら、ハッキングでどうにかなるかもしれない。腐敗国家なら役人や政治家に賄賂を渡して国籍を用意してもらえる可能性もある。
住民票や身分証明書を偽造することで、国籍・戸籍はないが問題なく社会で暮らしていくという手もあるだろう。しかし実用的なレベルの偽造技術の持ち主はそう簡単に依頼できる相手ではない。犯罪者社会にコネクションがある人でなければ難しいだろう。その場合、紹介してくれる人にも、技術者にも、たっぷりと礼をする必要がある。また、そのことが弱みになってもしまうかもしれない。
その場その場や狭い地域を誤魔化すだけなら、催眠術やハッキングだけでも何とかなるかもしれない。狸の妖怪が身分証明書の代わりに葉っぱを差し出したり、学校入学のために必要な電子的書類を偽造したり、という具合だ。しかしこれらの手段は短期的あるいは限定的な効果しか持たないことが多く、例えば「この生徒はA中学校を卒業したことになっているのに、A中学校のリストに名前がないぞ」などということになってバレる可能性もある。注意しよう。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース(https://www.ndanma.ac.jp/nma/course/novel/)】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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