♠2回「国籍・戸籍のないキャラクターの難しさ(前)」

榎本海月の物語に活かせるトラブル&対応事典

無国籍・無戸籍

物語の中で「拾われる」キャラクターが、必ずしも日本国の法律で守られる存在とは限らない。むしろ、オチものならそうでないキャラクターのほうが多いのではないか。天使や悪魔、妖怪や電子生命……そのような不可思議な存在を連れ込んでも、誘拐や略取にはあらない。
ただ、そうなると別の問題が出てくる。つまり、そのようなファンタジックだったりSF的だったりする存在は、国籍や戸籍を持たない可能性があるのだ。結果として、日本人なら普通に受けられる社会的サービスを得られないかもしれない。
現実にも無国籍者・無戸籍者は存在する。世界的にも国籍を持たないが故にどの国にも保護されない人、自分の生まれた国から追いやられて国籍を失った人が相当数存在して、厳しい生活を送っている。
日本の法律では、「日本で生まれた」ことがはっきりしていれば日本国籍を得て、また出生届をすることで戸籍を得るということになっている。しかしこの時に何らかの理由で届け出をしなかったあるいはできなかったことを理由に無国籍者、無戸籍者になるケースがかなりあるようだ。
捨て子などが公的機関に拾われると自治体の首長名義で届け出をすることになるのだが、たとえば親が自宅で独自に産み、育てなどするとこのセーフティネットからも外れてしまうのである。「ある日突然この世に現れた妖怪」や「森の中で暮らす狼男」、「異世界からやってきた人」なども、この点では同じようなものだ。

どんな問題があるのか?

無国籍者、無戸籍者は日本国民なら普通に受けられる社会的なサービスが受けられなくなる。具体的には、申し込みの際に住民票が必要なサービスはほぼ全滅と考えていいだろう。銀行口座は作れないし、学校に普通の生徒として通うのもかなり難しい。仕事や住居を得るのも相当な困難が発生する。
国家の庇護を得られないため、個人的な人間関係・信頼関係の中で暮らしていくか、そうでなければ支援してくれるNPOなどと連携していくかしなければいけなくなる。国籍あるいは戸籍を獲得するためには裁判所に訴え出る必要があるが、証拠を揃えるのが難しく、なかなか認めてもらえないケースが多い。
ところが意外なことに、無国籍者・無戸籍者はそのことが公的にわかっても即逮捕されるなどということはないようなのである。実質的には密入国者のようなものだから、捕まえて国外退去などになりそうだが、そもそも送り出す先がないということなのだろうか。結果、社会的に救済されることがないまま、日本で暮らすことになる。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース(https://www.ndanma.ac.jp/nma/course/novel/)】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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