Q.ライトノベルなら異世界転生以外ダメって本当ですか?

榎本海月のライトノベル創作Q&A

A:そんなことはありません!

「小説家になろう」ほか、ウェブサイト発の作品群が大流行になって以来、こんな質問を受けることも増えました。
もちろん、そんなことはありません。
これはどんなジャンルでもそうなんですが、何かものすごく流行ったジャンル内ジャンルや物語パターンがあるとしても、それをしなければ箸にも棒にもかからない、誰の目にも留まらない、なんて話は無いのです。

たとえばライトノベルで言えば、80年代終わり頃から90年代中盤にかけては「ゲームっぽい異世界ファンタジー」が主流でした。90年代後半からゼロ年代にかけては現代ファンタジー、そして青春もの。
10年代には再び異世界ファンタジーが主流になりましたが、かつてとちがって「現代日本出身の主人公が異世界で活躍する」タイプのものが非常に多く見られたのが特徴です。だから「異世界転生」なんですね。
また、ゲームっぽさは両者の共通点ですが、違いもあります。

かつての異世界ファンタジーがその「ゲームっぽさ」を独自に解釈し、ゲーム的要素が実際の世界だったらどうなるだろうというシミュレーション結果を小説にすることが多くありました。
しかし、10年代の異世界ファンタジーではしばしばゲーム的要素をそのまま作中に登場させます。HPがあり、MPがあり、スキルがある世界の中で、時に「これは作者がゲームで経験した実体験が反映されているのかな」などという出来事が盛り込まれたりします。

では、これらのようなその時期主流だった作品だけがライトノベルとして受け入れられ、他の作品はすべて排除されたのでしょうか。
そんな事はありません。

ライトノベルは黎明期から現在に至るまで、多種多様なジャンル、物語パターン、キャラクターを内包してきました。
異世界での冒険あり、現代日本での奇想天外なバトルあり、異種族との恋愛あり、美しくも見にくい青春模様あり、殺人事件バリバリのミステリーあり、星の海をわたるSFあり……ターゲット読者が喜ぶ面白さえあれば、他のことはすべて「なんでもあり」なのがライトノベルです。
現代ファンタジーでないとだめ、異世界転生でないとだめ、などの風聞がたまに聞こえることもありますが、流行りジャンルだろうとそうでなかろうと、面白ければ評価されるのがライトノベルなのです。

ただ、その時その時のジャンルに正しく注目することに意味はあります。
流行っているということは単純に好きな人が多いということでもありますし(それだけライバルが多くもなりますが)、流行りジャンルを正しく観察することで創作のヒントを得ることもできます。
例えば異世界転生が流行ったのは、単に「なろう」系の流行りであっただけでなく、ゲームという今の読者にとって最も身近なホビーとの関係性を見出すことができそうです。「転生」要素に注目されることも多いのですが、実は今の「なろう」での流行りは異世界転生から「最初からその世界で生きているキャラクターの冒険」に移っていたりします。

こんなふうに流行りをしっかり分析することには意味があるのです。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。』などがある。2019年にも新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』(秀和システム)を刊行。PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。講師としては愛知県名古屋市の専門学校日本マンガ芸術学園にて講義を行い、さらにオープン参加形式で【土曜セミナー】毎月開催中。

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