2018年8月特別講義:「ネタになる東洋の説話」

2018年度

説話はネタの宝庫です

日本と中国の説話(言い伝え・民話・神話・伝説などなど)を参考に物語考えてみる、という回です。

なぜ説話かというと、お話のネタがなくなったときに使えるから、だそうです。
物語を作っていればネタはなくなるものです。自分のなかにあるものや既に知っていること、自分の興味があることだけではいつかネタが切れてしまう。
そういう時に昔の人たちが作ってきた説話を利用しよう、というのです。

また今回「日本・中国の説話」としたのには理由がある、と講師は言いました。
その理由の一つが、まだ真新しいネタが眠っていること。
日本霊異記、今昔物語集、古事談、宇治拾遺物語といった説話集はインターネットで検索をかければすぐに見つかるものなのですが、そこまで手を伸ばしている人というのはなかなかいません。だから真新しいネタが眠っているんですね。

二つ目の理由が、著作権が切れていること。
勝手に利用しても誰にも文句を言われないのです。
(ただし現代語に訳されているものには著作権が存在する場合があるので、注意が必要です。訳す、という行為にも権利が発生するためです)

三つ目の理由は、短いお話がいっぱい入っていることです。
それらをぱーっと見ていくだけでもインスピレーションを得られるとのこと。
なかには「なにを言っているんだ?」と思わされるお話もあるそうですが「ではこれはどういうことなのだろう」と考えていくことで自分なりの物語を作っていくことができるでしょう。

講義では、講師からいくつかの説話と、そのアレンジの見本が語られました。

例えば中島敦の「名人伝」
『天下一の弓の名人になろうとした紀昌という男が、やがて自らの師匠を殺そうとして失敗し、より弓を極めようと更なる名人のもとを訪ねる。名人のもとで修業をしたのち、無表情の木偶のような容貌になって帰ってくる。彼は「至射は射ることなし」と言って弓の技を示さず、弓のことすら忘れていた』
というお話。

この元になったであろう二つの説話、『列子』湯問篇の「名人伝」と、同じく『列子』黄帝篇の『不射之射』も併せて紹介されました。
列子の「名人伝」では、紀昌が師匠殺しに失敗したところでお話が終わります。これに他の説話を混ぜてその後を描き「名人とはどういうものか」と疑問を投げかける物語に昇華させたのが中島敦のアレンジなのです。
「弓を見てもそれが何だか分からない、なんていう弓の名人は、それは本当に弓の名人なのか」なんて疑問は、列子の「名人伝」を読んでも出てこないことでしょう。

アレンジをする際に「なぜ」「なにが起きた」「その話は真実だろうか」と考えるのも手だということです。
例えば浦島太郎の玉手箱はいったい何なのか、なぜ乙姫はそれを浦島太郎に渡したのだろう、と考えるわけですね。

説話をそのまま長い話にするのではなく、それを土台にオリジナルのお話の乗せてあげる、
説話を切り口にしたうえで、皆さんの書きたいお話を考える、といったことが大事なのだと、講師は言いました。

こういった説話をネタにした、説話をアレンジした作品を挙げた後に、講師は「閲微草堂筆記」のことを教えてくれました。
閲微草堂筆記……なんだか難しそうな名前ですね。
読みは「えつびそうどうひっき」だそうです。

いろいろとネタになりそうなお話がある、ということで、またここからもいくつかお話を紹介してもらえました。

例えば、とある事件があった際に夫に誤解されて罵られ、しかし釈明ができそうにない妻を狐の祟りが救うお話がありました。
このお話では「妻が人知れず下女を救ったことがあったから、神様が狐に救わせたのだろうか」「神様なら、なぜ事件が露呈する前に助けてあげなかったのだ」といったやり取りがあります。たしかに、と考えさせられて面白いです。

他には、男が娶った妾の女が、半年の後に「自分は女狐なのだ」と告白して姿を消した――のだけれど、実はそんなことはなく、自分が女狐だというのは男から逃げるための嘘だった、というお話もありました。
その出来事に対してある者が「志異の諸書に記載されている、はじめ仙姫に遭い、しばらくして捨て去るという話は、すべてこの類かもしれないと思う」と語るところで、このお話は終わります。

講師が言うには、これは今回のテーマに合致するお話なのだそうです。
起こったことに対して「こういうことが起こったに違いない」と考えるわけですが、
嘘つきや詐欺師が「自分は神で」「自分は妖怪で」というお話をしたものを被害者が信じてしまったり、そうだったらいいなあと思ったりという経緯で物語になったものがそのなかに結構混ざっているのではないか、と。
こちらも「なるほど」と思わされるお話でした。

物語のネタになる説話。
皆さんもちょっと調べてみてはいかがでしょう。

土曜セミナーは一般の方、卒業生の方、他コースの学生さん方のためにもなるように開かれていますので、興味のある方はぜひご参加ください。

※本レポートは、専門学校日本マンガ芸術学院における「土曜セミナー」の様子です。講義・演習は榎本秋のプロデュースのもと、講師:榎本海月が行ないました。

【執筆者紹介】榎本事務所(えのもとじむしょ)
作家事務所。大阪アミューズメントメディア専門学校、東放学園映画専門学校、愛知県の専門学校日本マンガ芸術学院、専門学校日本デザイナー芸術学院仙台校などの専門学校やカルチャースクールなどへの講師派遣、ハウトゥー本の制作を行い、小説の書き方やイラスト・マンガの描き方といった創作指導に力を入れている。

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