No. 16 「カラドボルグ」―丘を3つ斬り飛ばす

榎本海月の連載

「雷の一撃」

カラドボルグはケルト神話の英雄、フェルグス・マック・ロイが持っていたとされる魔剣である。
フェルグスはクー・フーリンの叔父にあたるとされる人物で、元々は彼らが住む国アルスターの王だった。しかし先代王の未亡人に惚れ、結婚の条件として先代王の子に一年の約束で玉座を譲ったら、その統治が良かったので結局王には戻れなかった……というエピソードの持ち主だ。
そんな彼が持っていたカラドボルグは、ケルト神話に名を残すダーナ神族のものであったとされる。名前の意味は「雷の一撃」。もともと長い剣だが、抜き放つと虹の端から端まで届くほど長くなる、とされた。また、これを盗もうとしたものは火傷をするともいう。
カラドボルグにまつわる伝説で最も有名なのは、「クーリーの牛捕り」と呼ばれるコナハトとアルスターの戦争の時のことだ。この時、コナハト側として戦争に参加していたフェルグスは、カラドボルグによって「三つの丘の頂点を切り落とす」という凄まじい行いを成した。虹ほども長く伸びるというこの件だからこそできたのだろう。
なお、この戦いにはクー・フーリンもアルスター側として出陣していたが、両者がぶつかり合うことはなかった。二人は互いに示し合わせてかち合わないようにしたのだ。魔槍と魔剣がぶつかり合ったらどんな惨事になったかわからない。惨劇を回避したわけだが、この辺りは「戦士」が王の忠実な臣下ではなく独自の思惑を持っていた、古代ならではの風景ともいえよう。

どんな武器なら丘を斬り飛ばせるのか

カラドボルグはどんな武器だったのだろうか。『fate』シリーズではドリルのような武器として描かれているが、他にも想像の余地はある。長く伸びて丘が斬れたというのだから、たとえば薄く伸びたり、あるいはパーツとパーツが分かれたりして、鞭のようにしなる長い剣になったというのはどうか。
あるいは雷と名前にある通り、ビームソードの類だったというのはどうか。虹のように伸びたという時、本当に虹に似た、光の束のような外見をしていたとも考えられるからだ。
このように、まずSF的な武器を考え、「これが古代人の目にはどう見えるか」と考えるのも面白い。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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