No. 15 「グングニル」―オーディンの罰?

榎本海月の連載

百発百中の槍

グングニルは北欧神話の主神・オーディンが持っていた槍だ。トールのミョルニルと同じく、ロキが鍛治師を騙して作らせた武器であるという。
その外見はほっそりと優美で、特に投げて用いる槍であったらしい。オーディンがグングニルを投げるや、百発百中で相手を貫くのだ。シグムンドのグラムを砕いたエピソードがあるあたり、オーディンのグングニルは「神による罰」を象徴するものなのかもしれない。つまり、人が思い上がったりすれば、天から槍(現実には雷の形をしているかもしれない)が降ってきて、これを罰するわけだ。
グングニルは常にオーディンとともにあった槍であり、彼を象徴する武器なのだが、実は武器としての面白いエピソードや特別な能力はあまりない。
ラグナロクでもオーディンはグングニルを携えて戦いに挑んだが、巨狼フェンリルにグングニルを投げつけて傷を負わせたものの倒し切らずに飲み込まれ、最後は敗れている。やはりオーディンは魔術の神なので、槍はさほど目立たないのだろうか。あるいは、ラグナロクは神が敗れる戦いなので、神罰の象徴であるグングニルは特に分が悪かったのだろうか。
むしろ、グングニルはオーディンの魔術にまつわるの方エピソードに顔を出す。オーディンはルーン文字による魔術を学ぶにあたって仮死状態になるという試練に耐えたのだが、そのために「自分をグングニルで貫いた上で、首を吊って世界樹にぶら下がる」という荒技を敢行しているのだ。

神罰の象徴?

グングニルは神罰の象徴としての側面に注目するのが面白そうだ。たとえば神が人間を支配している世界で、反抗すると神の武器が降ってきて人間を串刺しにしてしまうのである。
あるいは、神の武器に刺されても死ななかったりすると神を超える力を手に入れたり、神に対抗する魔は神の武器では死なない、としても良いだろう。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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