眩い光を放つ剣
エクスカリバーほど有名な武器はそうそうない。原点であるアーサー王伝説とそこから派生したエンタメに登場するだけではなく、オリジナルな世界観を持つ異世界ファンタジーにおいて「特別な武器」の名前として使われたり、あるいはSF作品において「すごい武器(兵器)」の名前に採用されるなど、実に多様なシチュエーションでその名を見ることができるのだ。
では、具体的にエクスカリバーとは何なのか。イギリスの伝説的英雄アーサーが携えたとされる剣であり、「まばゆい光を放ってたくさんの敵を退けた(ゲームなどでしばしばビームを放って多数の敵を倒す力を持つのは、この辺りの話から来ているのだろう)」や「エクスカリバーを抜いて突撃したアーサーは470人もの敵を打ち倒した」という伝説がある。尋常の武器でなかったのは間違いない。
王者の剣と湖の剣
ところでこのエクスカリバー、二種類存在するのはご存知だろうか。
ひとつは、「石(鋼鉄の台とも)に刺さった王者の剣」である。これを抜いたものがブリテンの王になるとされ、実際にアーサーは王者の剣を抜いたが故にブリテンを統一するための戦いに挑んでいくことになる。ところがこの剣、戦いの中で折れてしまう。
もうひとつは「湖の貴婦人の剣」である。マーリンに導かれたアーサーが訪れた湖では、湖面から突き出た腕が剣を握っていた。この湖の妖精である貴婦人の願いを叶える代わりにアーサーは剣を手に入れたのだ。こちらの剣には「身に付けているものの傷を癒す」という特別な鞘がついている。貴婦人の剣はアーサーの死とともに湖に返還された。
この両者は共に「エクスカリバー」と呼ばれることが多く(fateシリーズでは前者を「カリバーン」とも呼ぶ)、他作品に登場するときもしばしば混同されたり、両者の特性を混ぜたような形で出てくるようだ。
こんなふうに、「一つの名前で呼ばれる複数の武器が存在する」というのは色々な世界設定で使えるネタであろう。その時は「どうしてそうなったのか」も考えたい。使い手や能力が同じだからだろうか。総称とどれか一つの武器の名前が混同されたのだろうか。それとも、何者かの企みがあるのだろうか?

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。