1999年7の月……
予言者といえば、皆さんはまず誰を連想するだろうか。「ノストラダムスしか知らない」という人も多いかもしれない。そのくらい日本ではこの人の名前が有名だ。
ノストラダムスは通称「ノストラダムスの大予言」と呼ばれる著書において、四行詩の形で数々の予言をして未来を言い当てた、という。特に「1999年7の月空から恐怖の大王が来る」の予言は世界の滅亡を指し示すものとされ、あまりにも広く知られている。90年代までのオカルトブームを牽引した存在であり、1999年には本当に世界が滅ぶのだと信じた人は決して少なくはなかったのである。
……しかし、今現在ノストラダムスの予言を信じる人は多くない。なにしろ、1999年に世界は滅びなかったのだから! また、彼の予言についてはそもそもあやふやな書き方がしてあって解釈は人により分かれており、別に世界の滅亡は予言していないというのが現在の主流な解釈であるようだ。
医者で占星術師でカレンダー業者
では、そもそもノストラダムスとはどんな人物だったのか。彼は16世紀の人間で、商人の家に生まれて学問の道で身を立てた。最初に医者として成功し、ペストの流行に際して活躍したとされるが、やがてもう1つの特技が注目されていく。占星術である。これを活用して未来を予知するという噂が広がり、特にフランスのアンリ2世が槍試合で死ぬのを予言したということで有名になって、フランス国王の顧問・侍医になった。
晩年の彼は裕福であったというが、それは占いや生活の知恵が記されたカレンダーの販売によるものであったとされる。……とても世界の破滅を予言した偉大な予言者には見えない素性だが、彼の虚像がここまで拡大したのはその死後のことであると思えば、実像はそんなものなのだろう。虚像と実像の関係はキャラクター造形において注目していいポイントだ。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。