No.95 「アコロン ―モルガンの愛人」

榎本海月の連載

妖姫の恋人

アコロンは円卓の騎士であり、モルガンの恋人でもある。孤立するモルガンに同情し、自分だけでも彼女に愛情を注ごうと言う優しさを持つ人物であったとして描かれる人物だ。そして何より、彼はエクスカリバーを使ったことがある、という特異なエピソードの持ち主でもあった。もちろん、彼が聖剣に選ばれたわけではない。そこにはモルガンの策謀があった。
アコロンはモルガンが自分の夫とアーサーを殺そうとしたエピソードに登場する。彼女は、アコロンとアーサーが互いの正体を知らぬまま決闘するように仕組み、しかもエクスカリバーをアーサーから奪ってアコロンに渡したのだ。アコロンがアーサーを殺し、彼が王になって、自分はその妻になるのが狙いだったという。
アコロンはこれこそ自分がモルガンの気持ちに応えるための試練だと思って奮い立った。また、エクスカリバーを与えられたのも、それだけ期待されているのだと信じる。エクスカリバーは単体で優れた武器だが、何よりもその鞘に魔力がある。どれだけ傷ついても戦い続けることができるのだ。
鞘の力でアコロンはアーサーを圧倒するが、アーサーも愚かではない。戦う中で自分がはめられたこと、相手がエクスカリバーをもっていることに気づいた。そして、盾を上手く使ってエクスカリバーを取り落とさせ、鞘も切り落とす。これによってアコロンはそこまでに受けていた傷が開き、死んでしまった。
アコロンがアーサーを殺せなかったせいもあってモルガンの陰謀は失敗した。恋人を失った彼女の怒りはさらに燃え上がり、アーサーからエクスカリバーの鞘を奪って湖に捨てるに至った。このことはのちのモードレッドの反乱においてアーサーが致命傷を受けたことにつながる。アコロンの悲劇はアーサーの死の遠因となったのだ。

器に合わないことをすれば

アコロンの物語は器に合わないことをしようとした人の悲劇である、といえよう。彼は優しかったが、特別な騎士ではなかった。モルガンを救うこともできず、かといって彼女が望んだようにブリテン王になることもできない。エクスカリバーを手にしたが使いこなせなかった(戦う途中で取り落としてしまった)のがその証拠だ。そして、その悲劇はブリテンそのものの崩壊にもつながってしまうのである。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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