No.92 「モルガン ―妖姫モルガン」

榎本海月の連載

アーサーへの攻撃

モルガン、あるいは「モルガン・ル・フェイ(妖姫モルガン)」はモルゴースと同じくアーサーの異母姉である。彼女もまたアーサーにたびたびちょっかいをかけたアーサー王伝説の悪役的なキャラクターだが、姉よりも魔法・妖術に関わるエピソードが多い。マーリンの弟子とも、湖の妖精であるともいう。
三姉妹の中の一番下という要素から設定されたのか、物語の中のモルガンはモルゴースと比べて幼く、激情的な印象がある。彼女はゴアのユリエンス王に嫁いでいたが、夫がアーサーに忠誠を誓うようになると、激怒のあまり夫を殺そうと画策するほどだ。そのせいで息子のユーウェインにそっぽを向かれてしまうのだが。
他にもモルガンがアーサーに陰謀・攻撃を仕掛けたエピソードは多い。モルガンの恋人である騎士がアーサーを襲ったり、円卓の騎士を罠に嵌めたり、「着ると燃える服」を贈ったりしたのである。基本的に、彼女の策謀はうまくいかなかったようだ。アーサーや円卓の騎士たちは勇気と知恵によりモルガンの陰謀を切り抜ける。しかし、長年の陰謀により宮廷にすくった不和は、やがて来たる破滅を拡大するヒビになったようだ……。

複雑な気持ち

物語の中のモルガンはモルゴースよりも明確に「アーサーに複雑な気持ちを抱いていたキャラクター」として描かれる。栄光に包まれる弟と、なかなか愛情を得ることができない自分を重ねたところもあるだろうし、禁断の感情もあったろう。それゆえにアーサーへの攻撃はより苛烈になったわけだ。そんな彼女の想いは物語の最後に果たされる。致命傷を負ったアーサーを船でアヴァロン島に連れていく役目を負ったのは、モルガンなのである。その時、彼女は何を思っただろうか。これも物語のいいネタになるだろう。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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